宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 ひとりきりで過ごす真冬の夜は、何とも心もとなく感じられる。ガタガタと窓が鳴らされる風の強い日などは、どうしようもなく不安が掻き立てられた。だが今はエラがいてくれる。そのことがとても心強かった。

(ヘッダ様はおひとりでさみしくないかしら……)
 かといってお茶や食事に誘っても、彼女は絶対に応じないだろう。ヘッダは常に敵愾心(てきがいしん)を向けてくる。リーゼロッテが厄介者(やっかいもの)だとしても、それは必要以上な態度に思えてならなかった。
(二割の人間には特に理由もなく嫌われるって、日本で聞いたことがあるし……)
 なんとなくいけ好かないという感覚は分からないでもない。リーゼロッテ自身、ヘッダに対して苦手意識を持ってしまっている。

「お互い距離を取るのがいちばんね」
「何がいちばんでしょうか?」

 戻ってきたエラが不思議顔で聞いてきた。東宮に来てから、独り言が癖になってしまったリーゼロッテだ。

「いいえ、なんでもないの。それにしても、アンネマリーは王妃様になるのね。ますます遠い存在に思えて、なんだかさびしく感じてしまうわ……」
「お立場上、これからは気軽にお会いできなくなるでしょうね。ですがお嬢様とアンネマリー様は従姉妹(いとこ)同士。非公式な場ではこれまで通り親しくしてくださいますよ」
「そうね。アンネマリーはアンネマリーだものね」
「さあ、お嬢様。本日はお嬢様のお好きなチョコトルテですよ」

 エラの言葉に瞳を輝かせた。目の前に置かれたのは、アプリコットジャムとバタークリームを塗った生地が、何層も重ねられたケーキだった。周りがチョコでコーティングされており、断面も美しく心が躍る。サクサクのパイ生地とクリームのしっとり感、ジャムの甘酸っぱさがビターチョコと絶妙に合う絶品スイーツだ。

 美味しいケーキを頂きながら、リーゼロッテはさみしさを(まぎ)らわすように、いつまでもエラとおしゃべりし続けた。

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