宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
     ◇
 (みそぎ)を終え祈りの間に入ると、数人の神官とディートリヒ王が先立って待機していた。かいだことのない(こう)()かれ、うすい煙が中を満たしている。

 年明けから七日が経ち、これから王位継承の儀が執り行われる。限られた者のみが集められ、大衆が詳細を知ることのない秘匿(ひとく)された儀式だ。これを終えたあとに、大勢の貴族が見守る中、戴冠式が行われる予定となっていた。

「では継承の儀を始めさせていただきます。王太子殿下とディートリヒ王はそこに座り、瞑想に入る準備をなさってください」

 促されディートリヒとともに、円陣が描かれた床の中央であぐらをかく。次いで神官長は器をひとつ差し出してきた。

「王太子殿下、まずはこちらを」
「これは?」
「神聖な植物から煎じた茶です。儀式に必要なものですので、残さずお飲みください」
「いや、しかし……」

 泥水のような液体は、何やら()えた臭いを発している。とてもではないが、人が飲めるものだとは思えない。腐ったものなど口にしたことはないが、腐敗臭とはこの事を言うのだろう。手渡されたものの、なみなみと入っている器を前に、ハインリヒは強張った顔で固まった。

 その横でディートリヒが、同じものを平然と飲み干した。迷いのない手つきは慣れたものを感じさせる。それを見てハインリヒは悟った。これは王となったら祈りの儀式で、毎月のように飲まねばならない代物(しろもの)なのだと。

 覚悟を決めて一気にあおる。あまりの不味さと苦さに吐き戻しそうになった。
 何とかすべてを飲み下した後、意識がぼんやりとし始める。かと思ったら急激に吐き気が込み上げた。

「吐けるなら吐くがよい。その方が楽になる」
「王のおっしゃる通りです。身の内の悪いものをすべて出すためにも、どうぞこちらにお吐きください」

 身を清めるためにと、ここ一週間は水と野菜の絞り汁しか口にしていない。初めは空腹に耐えかねたが、毒素が出たのか思いのほか体は軽い。
 そんな状態で、これ以上どんな悪いものが出るというのだ。内心で悪態(あくたい)をつきつつも、ハインリヒは胃の中身をすべて吐き出した。苦しく息をつくが、ほどなくして最初に感じた浮遊感が戻ってくる。

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