宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
「座っているのがおつらかったら横になっていただいても構いません。いちばん楽な姿勢を取ってください」

 朦朧(もうろう)とした意識の中でハインリヒは頷いた。世界がふわふわと回りはじめて、神官長の声もやけに遠くに聞こえてくる。

「では、青龍への道を開きます。王と王太子殿下はそのままで、ただ瞑想に没頭していてください」

 神官長の合図とともに、周囲にいた神官たちが笛や打楽器を用いて音楽を奏でていく。一定のリズムで刻まれる旋律は、初めはゆっくりと、そして(ふし)が繰り返されるごとに、少しずつ速度を増していく。
 そこに青龍を(たた)える祝詞(のりと)が重ねられていき、瞳を閉じたハインリヒの目の前に、極彩色(ごくさいしき)の光が押し寄せた。

 今まではその先に行くのを無意識に(こば)んでいた。今は恐れることなく、なすがまま(うず)に身を任せる。飲み込まれるように心地よい波が意識を埋め尽くして、ハインリヒはその光に溶け込んだ。

 体の感覚がまるでない。閉じていた唇、肩に入っていた力、床に座るあぐらをかいた足、(いん)を結んだ指先に至るまで、感覚という感覚がすべて消え失せる。
 自分と光の境目がなくなって、ハインリヒは押されるまま上へ上へと昇っていった。

 頭上にできた丸い穴から、ドーム状の空間へと入り込む。閉じた空間の壁面に、何か映像が映し出された。
 流れるそれが、今まで断片的に垣間見てきた国の歴史であるとすぐさま気づく。映像は高速で巻き戻され、そして始まりへとたどり着く。
 そこからはさらに速度が増した。巻き戻った歴史が順序だてられ、再び一気に再生される。

 戦火、悲鳴、怒り、慟哭(どうこく)――そして、終わりなき願い

 それこそが、この国のはじまり
 交わされた三つの契約
 ただそれを守るため、龍の血を受けた者たちが、数多(あまた)(いしずえ)となっていく。

 繰り返し繰り返し、大波のように押し寄せて、映像は余すことなくハインリヒの脳に焼き付いた。終わりを見せないループから抜け出すことも叶わない。
 気が狂った方がいっそ楽なのに。そう思わせるほど光の(うず)は、ハインリヒに苦痛を与え続けた。

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