宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
     ◇
 肌寒い牢の中、いつものように瞑想に(ふけ)っていると、ふいに人の近づく気配がした。
 自分に会いに来るのはレミュリオくらいだ。だが今日は王位継承が行われると聞いている。そんな国を挙げての神事に、レミュリオほどの神官が駆り出されないはずはない。
 瞳を開き、ミヒャエルは(いぶか)しげな視線を鉄の格子へと向けた。

「今回は特別ですよ。時間が来たらすぐ迎えに来ますからね」
「わかってます! ミヒャエル様のお顔を見たらすぐ帰りますから」

 聞こえてきた少年の声にミヒャエルは目を丸くした。あれは少しの間、自分の世話係をしていた神官見習いマルコの声だ。

「何しに来た。ここはお前のような者が来るところではない」
 顔を見るなり瞳を輝かせたマルコに、ミヒャエルは冷たく言い放った。

「あの、ボク……ビョウを持ってきたんです。ミヒャエル様がお好きでしたから」

 マルコは大事そうに(ふところ)から小ぶりなビョウを取り出した。世話をさせていた時に、好んで口にしていたことを思い出す。だがあれは好きというより、(くれない)の女の力に(むしば)まれ、それしか(のど)を通らなかっただけのことだ。

「いらぬ。それはお前が食せ。わたしの身の内に入ったとて、そのビョウは龍の御許(みもと)に還れぬ」

 この国では信仰として、植物は人が食べることで魂が浄化されると信じられている。特に神官の体を通したときに、その魂は龍の一部になれると言われていた。(けが)れたこの身が食べたところで、そんなご利益(りやく)があるとは思えない。

「でも……もう終わりの時期だけど、とっても美味しかったから、ボク、ミヒャエル様にどうしても食べてもらいたくて」
「なぜそんなにもわたしを気にかける。お前もわたしの犯してきた罪を聞いたのだろう?」
「聞きましたけど、だけどちっとも信じられなくて……ミヒャエル様、ボクにはずっとやさしかったから……」
「お前がどう思おうと事実は変わらぬ。これ以上わたしに関わるな」

 マルコは将来有望な少年だ。夢見の力を有し、何より純真無垢な清い心を持ち合わせている。かつての自分を重ね合わせ、ミヒャエルは(まぶ)しくマルコを見た。

(随分遠くへと来てしまったものだ……)

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