宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 王の手によりイジドーラが救われると知ったあの日、自分はそれを祝福すべきだったのだ。
 その時点で犯したすべての罪を(つまび)らかにし、彼女のしあわせを願いながら、(つぐな)うための余生を過ごす。ただ、それだけでよかったのだ。

「いいから今すぐ立ち去れ」
「ミヒャエル様の声が……死んだ父さんに似てるんです」

 ふいにマルコがぽつりと言った。悲しそうにうなだれて、その顔は今にも泣きだしそうだ。マルコはクマに親を殺されたと聞く。天涯孤独となり、神殿に来てからも不安で仕方ないのだろう。

(この者はどうにも調子が狂う)

 世話係をさせていたときも、マルコだけは苛立つミヒャエルに物おじせず近づいてきた。鬱陶(うっとう)しいと思えるほどの振る舞いは(まと)わりつく子犬を思わせて、冷たい態度をとりつつも結局そばにいることを許していた。

(わたしもまた、孤独に耐えられなかったのやもしれん)
 ふっと笑ってミヒャエルはマルコに静かに声をかけた。

「わかった、そのビョウは置いていけ。あとでちゃんと食すゆえ、お前はもう神殿へと戻れ」
 ぱっと顔を明るくしたマルコは、今度は懐から果物ナイフを取り出した。
「よかった! ボクが食べやすいよう切っておきますね! ミヒャエル様、ほっとくとずっと瞑想なさってるから」
「罪人のいる場に刃物を持ち込むなど……刑吏(けいり)に知れたらどうする気だ。そこまでする必要はない。今すぐそれをしまえ」
「大丈夫、すぐできますから!」

 そう言ってマルコはビョウに()を当てた。危なっかしい手つきで皮をむいていく。
「あっ、うっ、ああっ」
 自分の指まで傷つけそうなおぼつかない手が、(すべ)ったビョウを取り落としそうになる。なんとか落とさずキャッチすると、マルコは恥ずかしそうにへへっとはにかんだ。

「相変わらずそそっかしい奴だな。いい、わたしがやろう」

 本当にマルコは憎めない少年だ。落ち着きがなくて怒鳴ってばかりいたが、やはり自分はこの存在に癒されていたのだろう。

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