宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 全身を赤く染め、マルコはケタケタと笑い続けた。冷たい床に転がるミヒャエルは、目を見開いたまま絶命している。

 物音を聞きつけたのか、牢の向こうから足音が近づいてくる。そちらを振り返り、マルコは冷たい視線を向けた。鼻をつく鉄の臭気に、次第にマルコの瞳に(おび)えが戻る。
 目の前の床にミヒャエルが倒れていた。腹に刺さった果物ナイフを握りしめ、宙を見つめたまま息絶えている。

「あああ……ミヒャエルさまっ!」
「何事ですか、神官様……? ってなんじゃこりゃあっ」

 駆け付けた騎士が牢の中の惨状に悲鳴を上げた。次いで数人の騎士が駆け込んでくる。

「一体何が……!」
「ミヒャエル様……ミヒャエル様が……!」
「見てはいけない。お前は神官殿を外へお連れしろ。お前は騎士団長に即刻報告だ!」

 錯乱しているマルコの目を塞ぐように、年配の騎士がミヒャエルから遠ざけた。マルコは血の気を失った顔でしゃがみこむ。

「ボク、ミヒャエル様にビョウを食べてほしくて……あぁっミヒャエル様、どうして……どうして……」
 過呼吸の中、気を失ったマルコは、騎士のひとりに抱え上げられた。

「牢に刃物を持ち込ませたのか!? 誰だ、身体検査もせずに通した奴は!」
「だって神官がそんなもの持ってるなんて思わなくて……」
「言い訳なら後で聞く! まずは騎士団長に連絡だ!」
「あの、神殿にはなんと……」
「そんなものバルバナス様の指示を仰いでからだ! いいか、神殿にはまだ絶対に()らすなよ! この神官は保護の名目で軟禁しとけ!」

 混乱する場で矢継(やつ)(ばや)に指示を出したあと、騎士は血だまりに横たわる(むくろ)忌々(いまいま)しげに見下ろした。

「こんなめでたい日に自害するなんざ、どこまでもクズ野郎だな」

 部下の不始末は、最終的には自分が責任を取らねばならない。波乱含みの新しい御代の始まりに、自身の運のなさを嘆き、騎士は深く苛立ちの息をついた。

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