宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
     ◇
 泉に身を浸しながら、祈りを捧げる姿勢のまま、クリスティーナ王女はふと顔を上げた。

 王位継承の儀では神官たちの儀式(セレモニー)により、青龍への道が開かれる。それを(にな)う神官は中でもシャーマンと呼ばれ、特別な力を有する者たちだ。
 彼らの作り出す空間がより強固なものとなるように、場をサポートすることがクリスティーナの役割だ。泉の真ん中で祈りを捧げ、すでに何時間も経っていた。

 それは国の最北にいるシネヴァの巫女も同じことで、共振するように彼女の力が絶え間なくクリスティーナに送りこまれてくる。
 それをこの身がさらに増幅していき、先ほどから泉の水面(みなも)がさざ波立っていた。規則正しく美しい模様を描いていた波が、一瞬、乱されるように(ゆが)んで跳ねる。

(またひとつ、星が流れた――)

 龍はこんな時ですら犠牲を強いるのか。
 そう思うも、こんな時だからこそなのかもしれない。クリスティーナは龍の姿など視たことはない。だがその存在が、確かに()るということだけは感じ取れていた。

 もしかしたら龍はもう長くないのではないだろうか。()きることなく加速していく要求に、クリスティーナはそんなことをふと思った。だが自分にできることは何もない。ただ龍に従い、この命を差し出すだけだ。

 ハインリヒが王となり、その立派な姿を見届けるまでは生きながらえた。それはクリスティーナに贈られた唯一の手向(たむ)けだ。

 やがて時は満ちる。その瞬間が、もう間もなくやってくる。

 規則性を取り戻した波が、灯された蠟燭(ろうそく)の炎を映し、静かにきらめきを返した。
 龍の道が開かれていく。ほどなくしてハインリヒの気配が、この世界からかき消えた。
 それをつぶさに感じ取ったクリスティーナは、再び瞳を閉じる。

 すべての(うれ)いを忘れて、今だけは、ハインリヒのために一心不乱に祈りを捧げた。

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