宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 ――新しき王よ、(いにしえ)の契約に基づいて、今、すべての記憶を授けよう

 青銀の瞳の(ほのお)に射抜かれる。青龍から放たれた光はハインリヒの(ひたい)に真っすぐと伸び、膨大な記憶の波が有無を言わさず流れ込んでくる。 

 ――願いとは祈り、祈りとはすなわち光……分かるか? 新しき王よ

 龍の口は息を吐き出すのみで、その言葉はやはり脳に直接響いてくる。数多(あまた)の記憶が渦巻く中、龍の声が木魂(こだま)して、ハインリヒは眩暈(めまい)と吐き気に見舞われた。
 それでも自分が誓うべき文言(もんごん)が、自然と頭に浮かんできた。与えられた記憶が余すことなく、そのことを教えてくれている。

「神聖なる我が名において、過去、現在、未来、時空次元を超えた契約を、今再び約束する。星読みが(のぞ)む限り、イオを冠する王として、この契約は永劫(えいごう)守られることをここに誓う」

 乱れることなく紡がれた言葉に、ハインリヒの手から契約の光が放たれる。まっさらな紙が目の前に現れ、焼き付くように契約の文字が浮かびあがった。かと思うと紙が虹色に輝き、薄れながらやがて視えなくなった。

 ――誓約は確かに受け取った

 この国の真実を知った今、見上げる青龍にもはや恐れはない。ハインリヒは立ち上がり、微動だにしないマルグリットの姿を見やった。

 ――イオを冠する王よ、そなたが豊穣(ほうじょう)の王となるか、終焉(しゅうえん)の王となるか……それは次の星読み次第

 その意味を正しく理解して、ハインリヒの頭にジークヴァルトの姿がよぎる。それだけではない。姉姫のクリスティーナ、ラスの名を受けたカイ。
 自分にできることなど、欠片(かけら)のひとつも存在しない。すべては龍の思し召し。ディートリヒの口癖の意味を、今になって真に理解した。

 ――もう我が内に戻るがいい

 (うなず)いて、瞳を閉じる。ここから帰る方法も、この先すべきことも何もかも、受け継いだものがすべて覚えている。

 極彩色(ごくさいしき)の光の(うず)を通り抜け、ハインリヒは瞑想の(ふち)から静かに覚醒した。

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