宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
     ◇
 しばし半眼で姿勢を保っていたハインリヒが、音もなく立ち上がった。遠くを見据えるまなざしに、神官たちが息を飲む。真っ先に神官長が深々と頭を下げ、慌てた周囲がそれに続いた。

「ハインリヒ様、よくぞ戻られました」
「ああ」

 静かに言って、ハインリヒは先に目覚めていたディートリヒを見た。

「行きましょう、父上」

 頷いたディートリヒが、祈りの間を出ていった。そのあとをハインリヒが続く。目指すのは玉座(ぎょくざ)()だ。そこで貴族たちの前で戴冠式(たいかんしき)が行われる。

 玉座の間に入ってきたディートリヒに、先に待っていた王妃とアンネマリーが、いち早く礼を取った。続けて貴族たちも一斉に(こうべ)を垂れる。

(おもて)を上げよ。新しき王の誕生を、しかとその目に焼き付けるがよい」

 近衛の騎士が両脇に並ぶ奥から、王太子が玉座の間に入ってくる。その顔を見て、多くの貴族が息を飲んだ。
 そこに立つのは、みなが知るハインリヒではなかった。どこまでも遠くを見据える紫の瞳。色彩は違えど、それはディートリヒ王のまなざしそっくりだ。

「王太子殿下の即位は、王位継承の儀により無事()されました。新王誕生の(あかし)に、これより戴冠式を執り行います」
 神官長の宣言の元、ざわついていた空気が静まった。

 台座に乗せられた王冠が運ばれてくる。目の前に(ひざまず)くハインリヒの頭に、神官長の手によりその王冠が授けられた。
 王の(あかし)(いただ)いたハインリヒが静かに立ち上がる。目の覚めるような青のマントを肩にかけられ、ハインリヒは次いでアンネマリーを見た。

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