宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-

番外編《小話》今はまだ

 夜会帰りの馬車の中、ジークヴァルトは先ほどからずっと難しい顔をしている。いや、今回に限ったことではない。ふたりきりになると大抵その眉間にしわが寄る。

「あの、ヴァルト様……」
「なんだ?」
「何かお悩みでもございますか?」

 乗せられた膝の上、見上げた瞳は不思議そうに見つめ返してきた。

「どうしてそんなことを聞く?」
「なんだか難しいお顔をなさっていますから」

 ぎゅっと寄せられた眉根に手を伸ばす。

「ほら、またこんなにおしわを寄せて」

 指でぐりぐりともみほぐすと、ジークヴァルトが慌てたようにつかみ取ってきた。

「これは元からだ」
「そんなはずありませんわ。おしわがないときだって、ちゃんとあるんですもの」
「とにかく悩みなどない」
「でしたら何かを我慢なさっていませんか?」

 じっと見つめると、ふいと顔をそらされる。

「やっぱり我慢なさっているのですね。ちゃんとおっしゃってくださいませ。言いたいことはきちんと言うって、ふたりで約束しましたでしょう?」
「我慢ならば……してはいる」

 そのままジークヴァルトは押し黙った。正直に言ったから、もういいだろうといった態度だ。

「ですから! 何を我慢なさっているというのです? わたくしに至らないことがあるなら、遠慮せず話してくださいませ」
「お前がどうという話ではない」
「ですがわたくしが無関係というわけでもないのでしょう? だってヴァルト様、ふたりきりのときだけ、うんと難しいお顔をなさいますもの」
「いや、これはオレの問題だ」
「どうしてもわたくしには教えてくださらないのですね……そんなにわたくしは頼りないですか?」

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