宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
「では邪魔者は退散させていただきます」
「またいつでも顔を見せに来るといいわ」
「いや、用がなければ来なくていい」

 イジドーラを強く抱き込んで、ディートリヒが間髪入れずに言う。ますます呆れたような顔をして、カイは深々と(こうべ)()れた。

「もうひとり、見つかっていない託宣者がおりますので、その手掛かりを見つけた時にでもまた参ります」
「あら、それではいつになるか分からないじゃない。いいわ、今まで通り定期報告なさい」
「仰せのままに、イジドーラ様」
「報告は書類にまとめて来い。そして最短で帰れ」
「まぁ、ディートリヒ様、随分とおもしろいことを」
「いや、それ絶対に本気(マジ)ですって」

 カイが小声で突っ込むと、すかさずディートリヒが睨みつけてくる。

「ああ、もう……今すぐ御前失礼いたしますから、そんなに怒らないでくださいよ」

 やれやれといったふうにカイが部屋を辞していく。その背を見送るや(いな)やディートリヒが口づけてきた。

「イジィはオレのものだ。誰にも渡さん」
「どうなさったのです? 先ほどからお戯ればかり。それにあの大仰(おおぎょう)なしゃべり方は、もうおやめになったのですか?」
「ああ。威厳ある王らしくて、オレもなかなか(さま)になっていただろう? だがもう必要ない。それともイジィはあの方がお気に入りか?」
「いえ、王太子でいらした頃のディートリヒ様に戻ったようで、とても懐かしいですわ」

 王位を継ぐ前の奔放なディートリヒを思い出し、イジドーラは遠くを思うように目を細めた。

< 209 / 391 >

この作品をシェア

pagetop