宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
     ◇
 王妃となったものの、アンネマリーの公務は必要最低限に減らされている。王の子を身ごもっているのだ。周囲の腫物(はれもの)を扱うような態度も、おとなしく受け入れなければならなかった。

(それにしてもお腹がすくわね……)

 常に何かを口にしていないと胃がむかむかして、気持ちが悪くなってしまう。だからと言って食べ物なら何でもいいわけではなく、やたらとにおいに敏感になっていた。今まで好物だった物がまるで受けつけなくなったりもしている。

 口の中がさっぱりする果物を口に含みながら、日増しに張ってくる胸が重くてアンネマリーは小さくため息をついた。このままではどんどん太ってしまいそうだ。隣国では妊婦の適度な運動が推奨されていたが、この国はアンネマリーがひとりで歩くだけでも、周りから悲鳴が聞こえてくるありさまだ。

「王妃殿下、王がお戻りでございます」

 女官のルイーズの声掛けに、アンネマリーは出迎えようと立ち上がった。ハインリヒは王となってから、公務中でも頻繁に自分の元に帰ってくる。それこそちょっと時間ができただけでも、必要以上に何度も姿を現した。

「いいよ、君はそのまま座っていて」

 足早にハインリヒが入ってくる。女官たちが一斉に膝をつき、さっと部屋から出ていった。

「調子はどう?」
「変わりはありませんわ」
「そうか」

 ほっとした顔をされ、アンネマリーから苦笑いがもれる。このやりとりは今日でもう五回目だ。

 アンネマリーは隣に座ったハインリヒを覗き込んだ。ふたりきりのとき、ハインリヒの口調も態度も以前とさほど変わらない。だが王位を継いでからというもの、ハインリヒはどこか遠い目をするようになった。

(まるでディートリヒ様のようだわ……)

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