宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 裏腹に退位したディートリヒからは、あのまなざしが消えてなくなった。

 ――この国の王はその(かんむり)を降ろすまで人たり得なくなる

 いつかイジドーラに言われた言葉が頭をよぎる。その重圧を支え孤独を癒していくのが、王妃である自分の役目だ。

「わたくしは大丈夫ですから、あまりご無理はなさいませんよう」
「ありがとう。でもわたしが大丈夫ではないんだ」

 ふっと笑った瞳も、アンネマリーを映しているようで映していない。不安になる気持ちを悟られたくなくて、アンネマリーはハインリヒの肩に顔をうずめた。

「ああ……アンネマリーのにおいがする」

 落ち着くな。耳元で言ってハインリヒは小さく息をつく。あやすように背をさすると、ぎゅっと抱きしめ返された。

「王、そろそろお時間です」
 遠慮がちな声掛けに、ハインリヒはすぐさま立ち上がった。

「また時間ができたら戻ってくるから。アンネマリーはゆっくり休んでいて」

 見上げた(ひたい)に口づけを落としてから、ハインリヒは戻ってきた時と同様、足早に部屋を出ていった。
 身重(みおも)のアンネマリーを心配してというより、本当に自分自身が落ち着きたくて、ハインリヒはここへと何度も通っているように思えてならなかった。

(ずっとおそばにいられたらいいのに……)

 ため息をつきつつアンネマリーは、果物を口に頬張った。

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