宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
「今日はエラがいないから、自分で食事を取りにいかないとだわ」

 東宮に住みだしてから三か月は経つ。いつまでも客人気分でいるのは申し訳なかったので、ヘッダにはもう世話は必要ないと伝えてある。
 厨房の使用人たちとも顔見知りになった。自分が直接顔を出しても驚かれることはないだろう。

 ショールを羽織り一階の厨房へと向かう。バターたっぷりのパンが焼けたにおいが漂って、リーゼロッテのお腹がきゅるると鳴った。

(この不随意筋(ふずいいきん)運動だけはどうにもならないわね)
 お腹を押さえながら、誰にも聞かれていないことを確かめた。

 こんな寒い日でも厨房(ちゅうぼう)は熱気に包まれている。伺うように入り口から顔をのぞかせると、ちょうどオーブンの扉を開けた料理人と目が合った。

「おはようございます、ダーミッシュ伯爵令嬢様」
「おはよう、今日はエラがいないから自分で取りに来たの」
「ああ、今朝はエデラー男爵令嬢様がいらっしゃらないんでしたね。今すぐご用意いたします」

 手早く皿に盛りつけ、ワゴンに乗せていく。朝食と言えど少量ずつで品数も多く、手間がかかっているのがよく分かる。

「いつも美味しいお食事をありがとう。たいへんだったら品数を減らしてもいいのよ?」
「とんでもございません。伯爵令嬢様がいらしてからいろんなメニューに挑戦できて、こちらも(かえ)ってよろこんでおります。王女殿下は葉物野菜しか口になさいませんし、バルテン子爵令嬢様も小食で……。従者の方に至っては、肉の(かたまり)さえあればいいとおっしゃる始末でして」
「まあ、そうだったの」

 それを聞いて頬が赤くなった。三食に加えて、午前午後のおやつまでぺろりとたいらげている自分が、令嬢としてなんだか恥ずかしく思えてくる。

「特に子爵令嬢様は最近ほとんどお食べになられなくて……。ご体調も悪そうで、何か食べやすそうなものを探しているのです」
「ヘッダ様が?」

 ヘッダが調子を崩しているとは知らなかった。エラが来てからというもの、この狭い東宮で彼女とはまるで顔を合わせていない。

(病気の時と言えば、桃缶かしら? お(かゆ)とかも消化がよさそうだけど……)

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