宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 わりと健康優良児のリーゼロッテは、この世界の病人食などお目にかかったことがない。ヘッダのことで胸を痛めている料理人を前に、リーゼロッテはあることを思い出した。

「わたくしこの前の夜会でバルテン領の香草を頂いたの。ちょっと変わった風味の……なんて名前だったかしら……?」
「ビンゲンのことでしょうか?」
「そう! それよ。領地の特産なら、ヘッダ様も小さいころからお食べになっているだろうから、慣れた味に(しょく)もそそられるんじゃないかしら?」
「それはいい案ですね! さっそくビンゲンを使った料理を作ってみます」

 笑顔になった料理人は、リーゼロッテ用の朝食を並べていく。最後に銀の蓋(クローシュ)(かぶ)せてもらい、リーゼロッテはワゴンを押して、来た廊下を戻っていった。

 途中まで来て、ふと足が止まった。螺旋状に続く階段を見上げなら、呆然と立ち尽くす。

(この先はどうやって運べばいいの……!?)

 自分が過ごす部屋は二階にある。今まで特に何も考えていなかったが、ヘッダもエラも、このワゴンをどうやって二階へと持ち上げていたのだろうか。

(お皿を一枚一枚上へ運んで、それからワゴンを?)

 しかしそんなことをしたら料理が冷めてしまう。東宮で出てくる食事は熱いものは熱く、冷たいものは冷たく、いつも適温に保たれていた。
 それに運んだ皿を廊下に放置するなどできないだろう。そもそもこんな重量のあるワゴンを抱えて階段を昇るなど、この鍛え上げた大胸筋をもってしても絶対無理に決まっている。

「やっぱり……こんなことになっていると思いましたわ」

 冷ややかな声に振り向くと、暗がりの廊下にクリスティーナ王女がいた。腰まで伸びた長い髪ごとショールで身を包み、気だるそうに壁に背を預けている。

「クリスティーナ様……!」

 一瞬だけ礼を取り、不敬かとも思ったがそのそばに駆け寄った。王女は病弱と聞いている。廊下で気分が悪くなったのかもしれない。

「……ヘッダ様?」

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