宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 近寄ってみて、王女だと思っていたのはヘッダだった。ヘッダは色素の薄い茶色の髪で、光加減によってはクリスティーナと同じプラチナブロンドにも見えた。明かりの少ない場所で見るブルーグレーの瞳は、やはり王女の菫色(すみれいろ)の瞳と見間違う。

「申し訳ございません、わたくしクリスティーナ様とばかり……」
「当然ですわ。いざという時の替え玉となるために、わたくしはクリスティーナ様のおそばにいるのだから」
「え……?」

 一国の王女という立場で、命を狙われることがあるのかもしれない。不穏(ふおん)な言葉を残したまま、ヘッダはひとり壁伝いに歩き出した。その途中で苛立つように振り返る。

「何をなさっているの? それを持ってついていらして」
「あ、はいっ」

 慌ててワゴンを押しつつその背を追った。しばらく廊下を進むと、壁が大きく()()かれた場所でヘッダは立ち止まった。その壁の中を覗き込むと、ゴンドラのような箱が太いロープで吊り下げられている。

「この箱に乗れば上まで昇れます。日に何度も動かせないから、普段は階段をお使いになって」

 簡単に使い方を説明してから、ヘッダは不機嫌そうに背を向けた。

「ヘッダ様、教えてくださってありがとうございます」
「……気にかけるのはあなたのためではないわ。クリスティーナ様のご命令だからよ」
「それでも、本当に助かりました」

 突き放すような口調のヘッダに、リーゼロッテは淑女の礼を取った。振り返りもせずに、ヘッダはこの場を離れていく。その緩慢(かんまん)な足取りに、体調が悪そうなのが見て取れた。

(具合が悪いのに、わざわざ来てくれたんだわ)

 ヘッダは誠心誠意をもって、王女に仕えているのだろう。厄介者の自分が申し訳なく思えてくる。

「わたくしだって早く帰りたいもの……」

 あたたかなフーゲンベルクの屋敷を思って、リーゼロッテはしょんぼりとワゴンをゴンドラへと乗せた。

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