宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
    ◇
 ここ東宮での毎日は、何年も変わらず(おだ)やかに繰り返されていた。王女と自分、それにアルベルト、今日も三人で朝食を囲む。同じ食卓につくのはクリスティーナの望みだった。でなければ王族と共に食事をするなどあり得ない。

「あら? これはビンゲンではなくて?」

 クリスティーナがふいに言った。サラダから器用にそれだけをすくい上げ、ヘッダに見せてくる。

「確かにビンゲンですわね……」

 ヘッダの目の前には野菜のスープだけが置かれていた。王女はサラダ、アルベルトは肉料理とそれぞれ用意されるメニューは違っている。

 (さじ)にひとすくい、ヘッダはそのスープを口にした。これは生まれ育った領地でとれる香草だ。懐かしい香りがいっぱいに広がった。

「わたくしの皿にも入っていますわ」
「そう。ヘッダがあまりにも食べないものだから、料理長が気を利かせたのね」
「はい……あとで礼を言っておきます」

 食欲がない日が続いたが、久々にスープを完食できた。温まった体にほっと息をつく。

「ビンゲンはわたくしも好きね。毎日だと飽きそうだけれど。アルベルトは嫌いでしょう?」
「確かに鼻に抜けるあの香りは苦手ですね。ですが食べられないというわけではありません」
「アルベルトは強がりばかりね。素直に負けを認めたらどう?」
「食材に対して勝ちも負けもないでしょう……」

 呆れたようなアルベルトは、朝からもりもりと肉を食べている。それを目にするだけで、胃もたれしてしまうヘッダだった。

「ほんと、つまらない男」

 この言葉をクリスティーナは、いつもたのしげに言う。繰り返される日常が、切なくて苦しくて(いと)おしくてたまらなかった。

(どうか、いつまでも――)

 この願いはどこにも届かない。
 それを知っていてもなお、ヘッダは祈らずにいられなかった。

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