宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
◇
朝食のワゴンを返しに来て、ヘッダは料理長と目を合わせた。普段使用人に声掛けなどしないが、王女にああ言った手前、ひと言だけと口を開いた。
「ビンゲンを入れてくれたのね。その、故郷の味が懐かしかったわ」
「ああ……お口に合ったようでよかったです」
空になった皿を見て、料理長はうれしそうに笑顔になった。
「もしほかにご要望がございましたら、なんでもおっしゃってくださいね」
「ええ、そうするわ」
「でも本当によかった。バルテン子爵令嬢様は、ここのところずっと食が細くいらっしゃいましたから」
気遣われていたことにヘッダは驚いた。自分は王女に仕える、ただの侍女でしかないのだから。だがなんだかとても心があたためられた。
「ビンゲンを使うことは、実はダーミッシュ伯爵令嬢様が勧めてくださいまして」
「え……?」
その名に気持ちが一気に冷える。あの令嬢はどこまでも自分を不快にさせる。ヘッダは唇をかみしめて、逃げるように厨房を出た。
ヘッダの部屋は王女のいる階下、四階にある。螺旋階段を昇りながら、ヘッダは途中で胸を押さえて座りこんでしまった。
いつもは休み休み昇るのだが、怒りに任せて無理をしてしまった。この胸は長い運動に耐えられない。常備薬を探すも、入れ忘れていたことに気がついた。
「……っは」
苦しくて呼吸がままならない。もう少しだけ上がれば部屋へとたどり着く。脂汗を流しながら、ヘッダはやっとの思いで手すりにしがみついた。
「ヘッダ様……? どうなさったのですか!?」
駆け寄り支えられる。その主がリーゼロッテだと分かると、ヘッダは息も絶え絶えにその手を振り払った。
朝食のワゴンを返しに来て、ヘッダは料理長と目を合わせた。普段使用人に声掛けなどしないが、王女にああ言った手前、ひと言だけと口を開いた。
「ビンゲンを入れてくれたのね。その、故郷の味が懐かしかったわ」
「ああ……お口に合ったようでよかったです」
空になった皿を見て、料理長はうれしそうに笑顔になった。
「もしほかにご要望がございましたら、なんでもおっしゃってくださいね」
「ええ、そうするわ」
「でも本当によかった。バルテン子爵令嬢様は、ここのところずっと食が細くいらっしゃいましたから」
気遣われていたことにヘッダは驚いた。自分は王女に仕える、ただの侍女でしかないのだから。だがなんだかとても心があたためられた。
「ビンゲンを使うことは、実はダーミッシュ伯爵令嬢様が勧めてくださいまして」
「え……?」
その名に気持ちが一気に冷える。あの令嬢はどこまでも自分を不快にさせる。ヘッダは唇をかみしめて、逃げるように厨房を出た。
ヘッダの部屋は王女のいる階下、四階にある。螺旋階段を昇りながら、ヘッダは途中で胸を押さえて座りこんでしまった。
いつもは休み休み昇るのだが、怒りに任せて無理をしてしまった。この胸は長い運動に耐えられない。常備薬を探すも、入れ忘れていたことに気がついた。
「……っは」
苦しくて呼吸がままならない。もう少しだけ上がれば部屋へとたどり着く。脂汗を流しながら、ヘッダはやっとの思いで手すりにしがみついた。
「ヘッダ様……? どうなさったのですか!?」
駆け寄り支えられる。その主がリーゼロッテだと分かると、ヘッダは息も絶え絶えにその手を振り払った。