宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
「離して! あなたの(ほどこ)しなどいらないわ!」
「ですが……」

 できることなら今すぐこの階段から突き落としてやりたかった。だが痛む胸がそれを許してはくれない。

「いいからどこかへ行って!」

 これ以上醜態(しゅうたい)を見られるのは耐えられない。叫ぶように言って、ヘッダは再び手すりを頼りに昇り出した。しかし数段もいかずにその場にへたり込んでしまう。
 そこをすぐさま支えられる。腕を肩に(かつ)がれて、リーゼロッテはヘッダを上へと導こうとしてきた。

「いいって言ってるでしょう!」
「できません!」

 初めて聞くリーゼロッテの強い声に、ヘッダは驚きで口をつぐんだ。

「ヘッダ様に何かあったら、王女殿下がお悲しみになられます。わたくしが気に食わなくとも、ヘッダ様は素直に助けを求めるべきです」

 強いまなざしに反論できない。そのままヘッダはリーゼロッテに支えられて、自室へとたどり着いた。

「そこの引き出しに薬が……」
 力なく言うと、常備薬が水と共に差し出される。それを飲みくだして呼吸が落ち着くまで、リーゼロッテはやさしく背をさすっていた。

「……もう大丈夫です。できればアルベルト様を呼んできていただけますか?」
「はい、すぐにでも」

 礼すら言わなかったヘッダに淑女の礼を残し、リーゼロッテは部屋を出ていった。

「あなたがもっと……嫌な人間だったらよかったのに」

 悲しくて、ヘッダの瞳に涙がにじんだ。

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