宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
     ◇
「じゃあエラ、ちょっと行ってくるわね」
「はい、お嬢様。お気をつけて」

 戻ってきたエラと共に、何事もない日々を過ごしていた。日課の散歩をするために部屋を出る。と言っても、東宮の建物の中をうろつきまわるだけだ。ここ数日、外は雪が降りしきっており、庭に出ることは叶わない。

 螺旋階段をゆっくりと昇っていく。五階建ての東宮は(いち)フロアの天井が結構高い。建物としてもおそらく相当の高さだろう。

 はじめは休み休み昇っていたこの階段も、今では息切れすることなく昇りきることができるようになった。いかに運動不足だったか、今になってよく分かる。

(公爵家では階段は絶対にひとりでは昇らせてくれなかったものね)

 王城で階段上からダイブして以来、ジークヴァルトはリーゼロッテを抱えて階段を昇り降りするようになった。ジークヴァルトがいないときは、階段に近寄ることもままならない。どうしても必要なときは、必ず複数人がそばで見張っているという過保護ぶりだ。

(公爵家に戻ってもこの運動は続けたいわね。うまくヴァルト様と交渉しなくちゃ)

 そんなことを思っているうちに最上階まで昇りきる。一息ついてから、リーゼロッテは階段を降り始めた。調子のいい時はこれを何回か繰り返す。

(次に踊るダンスの足さばきは、きっとキレッキレね)

 うきうきな想像をしながら螺旋階段を(くだ)る。いつまで続くか分からない軟禁生活は、そんなことでもしないと暗く沈みがちになってしまう。

「あら、リーゼロッテ」
「クリスティーナ様!」

 昇ってきた王女と出くわして、あわてて階段の(はし)()ける。

「ちょうどよかったわ。あなたも部屋にいらっしゃい」

 そう声をかけ、クリスティーナは上階へと進んでいく。リーゼロッテはその背を追いかけ、降りてきた階段を再び急いで昇っていった。
 かなり急いだのに、王女は先に上まで昇りきっていた。病弱な割には疲れも見せずに、けろっとした顔をしている。

「クリスティーナ様はあのゴンドラをお使いになられた方がよろしいのでは……」
「どうして? あれは揺れるし時間もかかるから、自分の足で行った方が早いわ」
「ですが、お体が……」
「ああ、そういうこと。大丈夫よ、わたくしの体はどこも悪くはないから」
「え……?」

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