宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 部屋に招かれて、促されるままソファに座る。向かいに腰かけた王女はスノウドームを手に取った。感情を乗せない瞳で、それを手の内で(もてあそ)ぶ。

「テレーズが、隣国へと嫁いだでしょう?」

 突然そう言われ、一瞬返事に詰まった。テレーズはクリスティーナの妹だ。アンネマリーが隣国話で、頻繁に話題に出す第二王女のことを思い出す。

「第二王女殿下ですわね。アンネマリー様からテレーズ様のお話をよくお伺いしました」
「そう」

 それが何だと言うのだろうか。小首をかしげていると、クリスティーナがスノウドームを軽く揺らした。中で白い雪が対流するように舞っていく。

「縁談話は昔から出ていたの。本来なら第一王女であるわたくしが隣国へと嫁ぐはずだった。だけれどわたくしは龍から託宣を(たまわ)った身……この国から出ることは許されないわ。でもそんな言い訳、他国に通用するはずもないでしょう?」
「それでクリスティーナ様は病弱ということに……?」
「そんなところよ」

 遠い目をしてクリスティーナは続けた。

「妹は龍の託宣を受けなかった。それでわたくしの代わりに、テレーズに白羽の矢が立ってしまったわ……」

 アンネマリーの話では隣国の情勢はかなり不安定らしい。アンネマリーがテレーズの安否を気遣う様子を、リーゼロッテは何度も目にしてきた。

「だからこそ、わたくしは王女として託宣を果たす義務がある。例えそれがどんなものであったとしても」

 龍の託宣によって自分もアンネマリーも、大好きな人と結ばれることができた。だが王太子時代のハインリヒの苦悩と、アデライーデの悲劇を思い出し、両手放しによろこぶこともできないのだと改めて思った。

(テレーズ様の事だけじゃなくて、王女殿下は何かおつらい過去を抱えていらっしゃるのかしら……)

 (うれ)いをはらんだ瞳にそんなことを感じる。ヘッダの冷たい態度も、それに関係しているのかもしれない。

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