宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 慣れた手つきで一度知恵の輪を外すと、マテアスは再びそれを難なく組み合わせた。知恵の輪を受け取ると、リーゼロッテが不思議そうに小首をかしげてくる。

「どうしてこんなものを持っていたの?」
「こちらは泣き止まない子供対策でございます。あと、これですね」

 そう言って握りこんだ拳をリーゼロッテの前で開いて見せる。と、ぽんっと造花が一輪飛び出した。

「きゃっ、すごいわ、マテアス!」
「大抵のものは言っていただければ、すぐにでもご用意できますよ」

 そう言いながら先ほど取り出した品々を胸のポケットに戻していく。
 マテアスはしゅっとした体形をしている。あれだけいろいろなものがしまわれている割に、上着が膨れたりだぼついていることもない。

「マテアスって本当に何でも持ってるのね。まるで魔法使いみたい」

 何でも出てくるポケットなど、異次元に通じる例のアレのようだ。そんなことをリーゼロッテが胸中で思っているなどと知らないマテアスは、自嘲(じちょう)ともとれるような笑顔を返してきた。

「わたしは臆病な人間なのですよ。用意周到にしていないと、ろくに眠れもしない小心者なのです」
「え……?」
「ああ、エラ様がいらしたようですね」

 ノックの音にマテアスが扉へと向かった。
 緊張気味に入ってきたエラは、リーゼロッテの顔を見るとほっとした顔になる。

「待っていたわ。エラに見てもらいたいものがあって。あ、マテアス、この知恵の輪、しばらく借りていてもいいかしら? せっかくだからやってみたいの」
「もちろんでございます。ではエラ様、よろしくお願いいたします」

 マテアスの目配せにエラは神妙に頷き、斜め横のソファへと腰かけた。
 呪いの発動理由を知ったからには、公爵の魔の手からリーゼロッテを救うのは自分の使命だ。ダーミッシュ伯爵からも、婚姻前の節度は保つようにと(めい)を受けている。マテアスを味方につけた今、リーゼロッテの貞操が守れなかったという言い訳などできるはずもない。

「ねえ、見ていてエラ」

 リーゼロッテが灰色の丸い石を両手で包み込んだ。瞳を閉じ、深くゆっくりと呼吸をしながら集中している。その姿は祈りを捧げているようにも見え、神聖さを感じさせる様をエラは食い入るように見つめていた。

 しばしの後、リーゼロッテが静かに瞳を開く。次いでゆっくりと握った手のひらを(ほど)いていった。

< 22 / 391 >

この作品をシェア

pagetop