宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
「なんて美しい……」
リーゼロッテの手の上で輝くのは、それはそれは見事な緑の石だった。中で緑が不規則に揺れ、たゆとうような幻想的なきらめきを作り出している。その石を手渡され、エラは明かりに透かすように石の中を覗き込んだ。
「まるでお嬢様の瞳のようですね」
「力は瞳の色に宿るのですって」
「瞳の色に?」
「ええ、以前エマニュエル様がそうおっしゃっていたわ」
「お嬢様のお力はこんなにも綺麗なのですね……」
無知なる者のエラの目には、異形の者も力の色も目視することはできない。そのことをずっと残念に思っていた。
「ジークヴァルト様の守り石は青いでしょう? 王子殿下の石は紫なのよ」
「殿下の瞳の色は紫ですものね……。あっ、アンネマリー様が白の夜会でつけていたネックレスも、この守り石だったのですね!」
得心がいったようにエラは頷いた。
「エマ様も青い力をお持ちだし、みな瞳の色と同じなの。ふふ、でもマテアスは青くってもよく分からないわね」
「そう言えばクラーラ様にお渡ししたブローチにも青い石がついておりましたね」
異形に憑かれやすい体質の子爵令嬢クラーラに、魔よけとしてマテアスの守り石を贈ったのは、冬に開いたお茶会のことだ。ツェツィーリアの来襲、イザベラの猛攻、ルカの一目ぼれと、この冬はとにかく目まぐるしく過ぎる日々だった。
「まあ、マテアスの瞳も青いですから、何も不思議ではございませんが」
「え? エラはマテアスの目を見たことがあるの?」
リーゼロッテは思わずマテアスの顔を見た。相変わらずの糸目が、何か御用ですか? といったふうにこちらを見返してくる。
「あると言えばありますが……」
「でもマテアスってずっと糸目よね? いつ? どんなとき?」
「そうおっしゃられましても……幾度か見た時に確かに青かったと認識した程度で、具体的にいつかまで記憶には」
困惑したようにエラが首をひねった。
「そうなのね。ここだけの話なのだけれど、マテアスのまぶたを一度押し開いてみたいって、わたくし実は前からずっと思っていて……」
ひそひそとされている内緒話は、しっかりとマテアスの耳にも届いていた。それなら一度されたことがございます。そう思いながら書類に目を通していたマテアスの脳裏に、酔っぱらったあの日のリーゼロッテが浮かんでくる。
同様に思い出していたのか、理不尽な主の殺気がマテアスに向けられてきた。
あの寒い冬の日、紅茶に一滴たらされたブランデーで、リーゼロッテはそれは見事に酔っぱらっていた。抱きつきまくりの甘えまくりの恩恵に預かれなかったジークヴァルトは、いまだにあの日のことを根に持っている。
「あれはわたしのせいではございませんよ」
小声で言うと、ジークヴァルトは不服そうについとその顔を逸らした。
リーゼロッテの手の上で輝くのは、それはそれは見事な緑の石だった。中で緑が不規則に揺れ、たゆとうような幻想的なきらめきを作り出している。その石を手渡され、エラは明かりに透かすように石の中を覗き込んだ。
「まるでお嬢様の瞳のようですね」
「力は瞳の色に宿るのですって」
「瞳の色に?」
「ええ、以前エマニュエル様がそうおっしゃっていたわ」
「お嬢様のお力はこんなにも綺麗なのですね……」
無知なる者のエラの目には、異形の者も力の色も目視することはできない。そのことをずっと残念に思っていた。
「ジークヴァルト様の守り石は青いでしょう? 王子殿下の石は紫なのよ」
「殿下の瞳の色は紫ですものね……。あっ、アンネマリー様が白の夜会でつけていたネックレスも、この守り石だったのですね!」
得心がいったようにエラは頷いた。
「エマ様も青い力をお持ちだし、みな瞳の色と同じなの。ふふ、でもマテアスは青くってもよく分からないわね」
「そう言えばクラーラ様にお渡ししたブローチにも青い石がついておりましたね」
異形に憑かれやすい体質の子爵令嬢クラーラに、魔よけとしてマテアスの守り石を贈ったのは、冬に開いたお茶会のことだ。ツェツィーリアの来襲、イザベラの猛攻、ルカの一目ぼれと、この冬はとにかく目まぐるしく過ぎる日々だった。
「まあ、マテアスの瞳も青いですから、何も不思議ではございませんが」
「え? エラはマテアスの目を見たことがあるの?」
リーゼロッテは思わずマテアスの顔を見た。相変わらずの糸目が、何か御用ですか? といったふうにこちらを見返してくる。
「あると言えばありますが……」
「でもマテアスってずっと糸目よね? いつ? どんなとき?」
「そうおっしゃられましても……幾度か見た時に確かに青かったと認識した程度で、具体的にいつかまで記憶には」
困惑したようにエラが首をひねった。
「そうなのね。ここだけの話なのだけれど、マテアスのまぶたを一度押し開いてみたいって、わたくし実は前からずっと思っていて……」
ひそひそとされている内緒話は、しっかりとマテアスの耳にも届いていた。それなら一度されたことがございます。そう思いながら書類に目を通していたマテアスの脳裏に、酔っぱらったあの日のリーゼロッテが浮かんでくる。
同様に思い出していたのか、理不尽な主の殺気がマテアスに向けられてきた。
あの寒い冬の日、紅茶に一滴たらされたブランデーで、リーゼロッテはそれは見事に酔っぱらっていた。抱きつきまくりの甘えまくりの恩恵に預かれなかったジークヴァルトは、いまだにあの日のことを根に持っている。
「あれはわたしのせいではございませんよ」
小声で言うと、ジークヴァルトは不服そうについとその顔を逸らした。