宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
     ◇
「新しいお役目ですかぁ?」

 去年からずっとブルーメ家でルチアの侍女をしていたベッティは、久しぶりにカイに呼び出されていた。

「うん、ルチアも今の生活に馴染(なじ)んできたみたいだから、しばらくはブルーメ子爵とイグナーツ様に任せといてもいいかなと思って」
「しばらくは……なんですねぇ?」
「うん? 何か問題ある?」
「いぃえぇ、何もございませんよぅ」

 託宣がらみとは言え、カイがここまでひとりの人間に執着を見せるのは初めてのことだ。イグナーツに対してさえ一定の線は引いているようなのに、なぜだかルチアに対してだけは、そういったものを感じさせないでいる。

「最近のルチアはどう? おとなしくしてる?」
「はいぃ、ルチア様もブルーメ子爵様とは波長がお合いになるようでぇ、いつも仲良く土まみれになっておりますねぇ。先日も春に植える(なえ)の話で盛り上がっておられましてぇ、(はた)から見ていると本当の父娘(おやこ)のように見えますよぅ」
「そっか、ならよかった」

 カイは今、自分がどんな顔をしているのか、分かっているのだろうか? その(おだ)やかな表情を前に、ベッティは珍妙なものを見るような目つきになった。

「ん? どうしたの? ベッティ、すごくおかしな顔になってるよ?」
「そのお言葉、そっくりお返しして差し上げますよぅ」

 互いに(いぶか)しげな顔で目を見合わせたあと、一転してカイの表情が真剣なものとなった。

「それはさておき、今回の任務なんだけど……行く先がちょっと危険を伴うかもしれないんだ」
「かもしれない?」

 カイにしては歯切れの悪い言葉に、ベッティは首をひねった。

「もしかしてグレーデン侯爵家の不正の一件ですかぁ?」
「いや、それは大方(おおかた)片が付いたから。グレーデン家がうまいこと立ち回ったせいで、こっちのやることは大幅に減ったんだ」
「それはよかったですねぇ。カイ坊ちゃま、グレーデン家相手じゃ動きづらかったでしょう?」
「まあね」

 その割に不服そうな顔でカイは「エルヴィン・グレーデンだけは許すまじ」とつぶやいた。

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