宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
     ◇
 間もなく新月がやってくる。

 雲ひとつない今宵(こよい)は、ひと(きわ)星が大きく(またた)いて見える。こうしてじっと見上げていると、満点の星空に飲み込まれてしまいそうだ。

 その時、流れ星が夜の空を大きくよぎった。一瞬で消え去った光の(すじ)に、いよいよその時が来たことを知る。

 自分に残された時間はもうほんの(わず)かだ。
 思うほど感慨は湧かないものだと、クリスティーナは静かに瞳を伏せた。

「クリスティーナ様……」

 明かりもつけずに窓辺にたたずんでいた背に、遠慮がちに声がかけられた。ヘッダを振り返り、クリスティーナは毅然(きぜん)とした王女の顔となる。

「時が満ちるときが来たわ。今までわたくしに()くしてきてくれたこと、心から礼を言います」

 王女の言葉を前に、ヘッダは顔を青ざめさせた。その瞳には、みるみるうちに涙が浮かんでくる。

「ヘッダ・バルテン、わたくしから最後の(めい)(くだ)します。例えこの先短くとも、あなたは自分の道を必ず(まっと)うなさい。わたくしの後を追うことだけは絶対に許さない。それだけは覚えておいて」

 嗚咽(おえつ)をもらしたヘッダを、クリスティーナはやさしく抱きしめた。

「ヘッダ、きちんと返事をなさい」
「……クリスティーナ様の、仰せのままに」
「それでいいわ」

 ほほ笑んで、(こぼ)れ落ちる涙をぬぐいとる。

「すべては龍の意思。リーゼロッテのことは恨まないでやって。いちばんに傷つくのはあの()だろうから」

 できるでしょう? そう耳元で言われて、ヘッダは小さく頷いた。

 菫色(すみれいろ)の瞳を細め、クリスティーナはやわらかく笑った。次いでいたずらな視線を向けてくる。

「最後にわたくしは自分の願いを叶えてくるわ。夜が明ける前には戻るから、今夜だけは見なかったことにしてちょうだい」
「……準備を整えてお戻りをお待ちしております。(うれ)いなく、どうぞクリスティーナ様のお心のままに」
「ありがとう、ヘッダ」

 見送られて、クリスティーナは夜更けの部屋を後にした。

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