宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
     ◇
 鍛錬(たんれん)を終えて、エラはマテアスと連れ立って廊下を歩いていた。この早朝訓練はずっと続けられている。夏は陽が昇る時間も早い。回数が減ってしまった分、マテアスは長めに時間を作ってくれていた。

 忙しいマテアスが削れるのは睡眠時間だけだ。それが分かっていてなお、エラはこの鍛錬をやめるわけにはいかなかった。リーゼロッテを守るためにもっと数をこなしたい。そんな思いばかりが(つの)って、マテアスの厚意に甘えてしまっている。

「あの、マテアス、夏の間は部屋までの送り迎えは、なしにしても大丈夫なのでは?」
「以前にも申し上げましたが、送迎をやらせていただけないのなら、鍛錬自体なしにさせていただきますよ」

 せめて負担を軽くしようと提案したが、以前と変わらない答えが返ってきた。困った顔のまま、エラは小さく首をかしげた。

(今度マテアスの部屋の前で待ってようかしら? その方がマテアスも長く休めるだろうし)

「何をお思いかは存じませんが、その考えはお捨てになった方がよろしいかと。万が一わたしの部屋の前で待機などなさっていたら、有無を言わさず部屋に引き込みますよ」
「えっ!?」

 胸中を言い当てられたのとそのあとに続いた不穏な内容に、エラは必要以上に動揺してしまった。だが横を歩くマテアスはいつも通りの涼しい顔のままだ。

「……マテアスって時々おかしな冗談を言いますよね」
「おかしいですか?」
「おかしいというか、らしくないというか……」

 早朝に絶対ひとり歩きをするなという、マテアスなりの忠告なのかもしれない。ここは従うほかはないのだろうと、エラは素直に降参することにした。

「エラ様の中のわたしが、思いの(ほか)まともな人間のようで安心いたしました」
「マテアスのことは尊敬しています」

 この巨大なフーゲンベルク家をまとめ、公爵を補佐しながら日々執務をこなしている。人当たりが良く使用人たちをうまく使っているし、かといってないがしろにすることもない。その上武術の達人とくれば、取る揚げ足すら見つからない。

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