宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
     ◇
 誰もいない王城の一室で、リーゼロッテはジークヴァルトの迎えをそわそわと待っていた。
 年が明けてから一度も会えていない。手紙のやり取りだけではやはりさみしくて、早くその腕で抱きしめて欲しかった。

 ジークヴァルトの大きな手を思う。髪を梳く指はやさしくて、頬を滑る指先はいつでもあたたかい。重ねるとこの手などすっぽりと収まって、自分との違いに驚かされてしまう。
 その筋張った手の動きを見ているだけで、胸はいつでも高鳴った。そこから伝わる青い波動が恋しくて、リーゼロッテは切なくため息をついた。

「ああ駄目だわ、力が溢れて倒れそう……!」

 慌てて深呼吸を繰り返す。ジークヴァルトが来た時に、ひっくり返っているわけにもいかないだろう。東宮で肉体改造計画は順調にいったが、力の制御の訓練はずっと頓挫(とんざ)したままだ。

(だってヴァルト様がひとりで力を使うのは駄目だって言うから……)

 以前に掴んだ感覚も、なんだか薄れてきてしまっている。今、守り石に力を()めたなら、見事に粉砕(ふんさい)するに違いない。そんな情けない確信がリーゼロッテの中で沸いてくる。

 公爵家に戻ったら、さっそく力の制御の訓練を再開しよう。そう思ってなんとか心を落ち着けた。

「これでもやって気を紛らわせよう」

 ポケットに忍ばせてあった知恵の輪を取り出して、リーゼロッテはかちゃかちゃといじり出した。マテアスに借りてから半年近くは経つ。東宮にいる間もずっといじり倒していたが、知恵の輪が外れる様子は一向になかった。
 ああでもないこうでもないと夢中になっていると、部屋の扉が叩かれた。

「ジークヴァルト様!?」

 急いで扉を開けるとそこには慌てた様子の女官が立っていた。以前王城で世話になったことのある、顔見知りの女官だった。

「ダーミッシュ伯爵令嬢様。今すぐ部屋を移動なさっていただけますか?」
「え? でもジークヴァルト様がまだ……」
「この近くで不穏(ふおん)な事が起きておりまして」
「不穏な事……?」
「お耳に入れるようなことではございませんが、何者かが(けもの)亡骸(なきがら)を廊下に打ち捨てておりました。万が一があってはなりません。ご案内いたしますので、さ、お早く」

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