宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 その手には長剣が握られている。刃先(はさき)(つらぬ)かれた(ねずみ)を見せつけるように差し出すと、マルコはたのしそうに声を(はず)ませた。

「ねぇ、その傷薬、この鼠にも効くかなぁ? もう死んじゃってるけど、痛いの飛んでくかなぁ?」

 高く振り上げると、(やいば)を伝いながら血が流れ落ちてくる。根元の()まで(したた)り落ちて、それはマルコの指の間にも流れ込んでいった。

「マルコ……さま……」
「怖い? リーゼロッテ様、かお真っ青!」

 けたけたと笑い声をあげて、マルコは手にした剣を無造作に下にふるった。血しぶきと共に、切っ先にいた鼠が廊下の先へ転がっていく。

「ふぅ、よく切れるけど、これちょっと重いや」

 ごとりと剣の先を床につけ、マルコはおでこの汗をぬぐった。手がなぞる動きそのままに、血のりが(ひたい)へと残される。

「ど……ぅして……」

 かすれた声が唇から漏れた。リーゼロッテに視線を戻すと、片手に持った剣を引きずって、マルコがこちらへと向かってくる。嫌な音を立てながら、血混じりの傷が廊下の床に刻まれた。

 逃げ出したいのに恐怖で足がすくんだ。近づいた分だけ距離を開けるように、リーゼロッテは一歩また一歩と後退していった。

「なんで逃げるの?」
「や……来ないで」

 壁際まで追い詰められて、リーゼロッテの視線が血で汚れた長剣におりる。その怯える瞳を見たマルコは、得心がいったように頷いた。

「そっかぁ、リーゼロッテ様もマルコと一緒で血が怖いんだね。変なの。だってこんなに綺麗なのに」
「マルコ様……」
「違う、マルコじゃない。あたしモモって言うの」
「モモ……?」
「そう、あたし、マルコから生まれたんだ! あの日、マルコが壊れちゃわないように、マルコがあたしを作ったんだよ!」

 瞳を輝かせ、マルコは少女のような口調でしゃべり続ける。それをリーゼロッテは震えながら聞いていた。

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