宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
「リーゼロッテ様もマルコに聞いたでしょ? 父さんがね、マルコの目の前でクマに殺されたの! すごかったんだよ! クマのね、丸太みたいなぶっとい腕がね、父さんの頭をこう!」

 振りかぶった手を勢いよく振り下ろしながら、マルコはくるんと一回転した。遠心力で長衣の(すそ)(ひるがえ)り、手から離れた剣が倒れるように床を転がった。

「クマの力ってすごいね! 父さんの頭なんて()れたビョウみたいにパーンってはじけちゃって! そしたらね、無くなった父さんの首から天井まで血が吹き上げて! こう頭の上に降ってきて、王都の広場にある噴水みたいで、夢みたいにほんとうに綺麗だったんだよ!」

 うれしそうに瞳を輝かせ、両手を天に(かか)げてみせる。

「ねえ、リーゼロッテ様、知ってる? 人の血ってね、しょっぱいんだよ! 涙と一緒でねぇ、すっごくすっごく、しょっぱいんだよ!」

 新しい発見を母親に報告する子供のように、マルコは高揚した頬をリーゼロッテに向けた。

「母さんはおいしかったのかなぁ? 目覚めたら母さんのお腹、からっぽでさ。(はらわた)がごっそり無くなってて……! あのとき気を失わなければよかったなぁ。そうしたら母さんから血が流れるところも、この目で見ることができたのに」

 残念そうに唇を尖らせたマルコを前に、リーゼロッテの瞳から涙が溢れ出る。

「どうして泣くの? マルコは何度も言ったんだよ。クマが襲いに来るから気をつけてって。なのにマルコのことなんてちっとも信じなくて、しまいには気がふれたって部屋に閉じ込めたりしてさ。馬鹿だよね! そのおかげでマルコだけ助かって、父さんも母さんも、夢に見た通りに死んじゃったんだから!」

 あはははは、とマルコは腹をかかえて笑った。本当に可笑(おか)しそうに、目じりに涙まで浮かべて。

「そのあと急にさ、夢見の才があるとか言って、みんな急に手のひら返してさ。あんなにマルコのこと気味悪がってたクセに! 父さんと母さんが死ぬまで、だぁれも信じなかったクセに……!」

 ふと真顔になって、マルコは床に転がる剣に目を止めた。表情なくそれを拾い上げると、リーゼロッテの顔をじっと見やった。

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