宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
「そういえば、ミヒャエル様の血もしょっぱかったっけ……。リーゼロッテ様はどうかなぁ? お人形みたいに綺麗だし、もしかしたら甘かったりするのかなぁ?」

 再び剣を引きずりながら、マルコがゆっくりと近づいてくる。壁を背に横に逃げようとするも、柱に阻まれてすぐに追い詰められてしまった。

 目の前に立つマルコが笑った。狂気の目を見開いて、それなのにとても無邪気な顔で。

「ミヒャエル様はね、お腹から刺したんだ。胸には骨がいっぱいあるから、うまく隙間を狙わないと駄目なんだけど、でもね、ここ、鳩尾(みぞおち)から斜め上に刺すとね、かんたんに胸まで届くんだよ。そうしたらどうなると思う? 刺した後、すぐに口からいっぱい血が吹き出るんだ! ミヒャエル様の血もね、すんごくあったかくて綺麗だったよ!」

 息が詰まって声が出せない。指一本動かすこともできなくて、マルコと見つめ合ったままリーゼロッテはただ立ちつくした。

「でもリーゼロッテ様はお腹からは無理かなぁ。お嬢様のドレスって布地が厚そうだし、うまく届かなかったらいやだよね。何度も刺すとリーゼロッテ様も痛いでしょう? うん、だったらリーゼロッテ様は首にしようか。それならひと思いにかき切ってあげられるから」

 よいしょ、とマルコは剣を両手で持ち上げた。少しふらつきながら、リーゼロッテの肩にずしりと重い剣先を乗せる。鋭く光る刃が首元に迫って、リーゼロッテは唇を震わせた。

「ああ白くって、とっても綺麗な肌……見て、こんなに血の道が透き通ってる……」

 血で濡れた指先で首筋をなぞりながら、マルコはうっとりと目を細めた。

「苦しまないように一気にやってあげるから」

 動けないリーゼロッテの喉元に冷たい刃がひたりと当たる。わななきながら浅い呼吸を繰り返した。


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