宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
「あのヨーゼフとかいう神官、いけ好かねーな」
「あいつはミヒャエル派の残党よ。ミヒャエルが死んでからやりたい放題にしてるみたいね」
「神殿内も荒れてんな。あの神官長、王家には従順だけど、組織のトップとしてはちょっと頼りなさそうだもんなぁ」
「それにしても、神官長自ら申し立てに来るだなんて。あの神官見習いには何かあるのかしら……?」
「オレも聴取に加わったが、めそめそ泣いてる気弱な子供にしか見えなかったけどな」

 今回の騒ぎはどうにも不可解だ。王城の廊下に放置された野鼠(のねずみ)死骸(しがい)。広がった不穏な異形の気配。明らかに剣で殺害された王女――しかしハインリヒはそれを病死と扱った。

「クリスティーナ様……」

 美しく聡明だった王女を思うと、胸が締めつけられる。子供の頃から右手の甲を隠すように、王女はハンドチェーンをつけていた。あそこにもし、龍のあざがあったのだとしたら。

「今回の事件は龍の託宣がからんでいる……?」

 真相は分からない。王女はもう荼毘(だび)に付されてしまった。だが降りた託宣が関係しているのなら、王となったハインリヒはすべて真実を知っているはずだ。

「その場には妖精姫がいたんだろう?」
「ええ、でもリーゼロッテはまだ話せる状態じゃないから」
「凄惨な現場だったからなぁ……さぞや怖い思いをしたんだろう」
「それもあるけど、リーゼロッテは今、力の知恵熱(ちえねつ)中よ」
「へ? 今さら?」

 力の弱い者はまずならないが、強まる力に子供の体がついていけなくなることがある。ニコラウスの中では成長痛くらいの認識だ。

「あの()の場合、いろいろと事情があるのよ」

 今頃ジークヴァルトは心配で気が気ではないことだろう。幼いころから何があっても動じることのなかった弟が、リーゼロッテの前ではおもしろいように動揺しまくっている。その姿がたのしすぎてつい邪魔ばかりしていたが、今回ばかりはさすがに気がひける状況だ。

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