宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
「ねえ、ニコ。好きな()を前にして我慢するのってどんな気持ち?」
「は? 何だよいきなり」
「ジークヴァルトよ。そろそろ限界なんじゃないかと思って」
「あの妖精姫相手に我慢してんのか!? お前の弟、とんでもない精神力だな」
「そんなになの?」

 いまいちピンと来ていない様子のアデライーデに、ニコラウスは苦笑いを向けた。

「バルバナス様があの調子じゃあ、そう思っても仕方ねーか」
「なんでここでバルバナス様が出てくるのよ?」
「うん……まぁお前もたいがい鈍いよな」

 ひとり遠い目をするニコラウスに、アデライーデはますます分からないといった顔をした。

「そんなことより、お前いきなりひとの尻つねるのやめろよな」
「ニコが情けない顔するからでしょ。タレ目のくせに」
「タレ目は関係ないだろうがっ。そもそも男の尻に触れるなんて、女のすることじゃないぞ!」
「馬鹿ね、相手はちゃんと選んでるわよ。それにニコのどこが男だって言うのよ、タレ目のくせに」
「は? 喧嘩売ってんのか、オラ」

 半眼になって顔を近づけてきたニコラウスに、アデライーデはふんと鼻で笑って見せた。

「ニコがあの神官みたいに男前なら、あんなことするわけないでしょう?」

 先ほどまでいたレミュリオのことを言っているのだと分かると、ニコラウスはむっとした顔になった。レミュリオは次期神官長候補として名が挙がっている。神事にもよく顔を出すので、美貌の青年神官として令嬢たちにモテモテのいけ好かない存在だった。

「なんだよ、お前もあんな優男(やさおとこ)が好みなのかよ」
「そうね……彼の子供なら生んでもいいかも。可愛い子ができそうじゃない?」
「はぁ? おま、それ、バルバナス様の前で言うんじゃねーぞ!」
「なんでまたバルバナス様が出てくるのよ? ニコ、あなた馬鹿じゃないの」
「……馬鹿なのはお前の方だ」

 アデライーデにおかしな男が近づかないよう、バルバナスから見張るように指示されている。アデライーデからもバルバナスからも、男として認識されていない自分がなんだか悲しくなってくる。

「ほんと、めんどくせーな、お前ら」

 逃がしたくないなら、さっさと自分のものにすればいいのに、バルバナスにその気配はまるでない。飼い殺しにされているようで、アデライーデが可哀そうというものだ。

(まぁ、尻のひとつくらい、つねらせてやってもいいか)

 不満顔のアデライーデを前に、そんなことを思ってしまうニコラウスだった。

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