宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
「龍の差し金か……? こんな戯言(ざれごと)を許すなど、お前たちはどうかしている」
「すでにハインリヒの御代だ。あれに任せておけばすべて上手くいく」
「上手くだと!? お前、自分の娘が犠牲になって何とも思わないのか!」

 胸倉をつかんで乱暴に持ち上げる。だがディートリヒは態度を崩すことはなかった。

「クリスティーナは自慢の娘だ。兄上が信じようと信じまいと、それだけは変わらない」

 バルバナスは(いきどお)りを抑えられないまま、ディートリヒを置いて後宮を離れた。龍に迎合(げいごう)する人間とのやりとりはいつもこうだ。のらりくらりと(かわ)されて、苛立ちばかりが一方的に増していく。

 青龍に選ばれなかった。たったそれだけの理由で国の内情は知らされず、自分は常に蚊帳(かや)の外だ。父フリードリヒも、弟のディートリヒも、甥であるハインリヒも、龍に囚われた者は腑抜けて傀儡(かいらい)のごとく従うだけだ。

 王の子として生まれ、周囲の人間は表面上だけ(うやま)ったようにふるまってくる。そんな態度は母親からすら感じられて、バルバナスは劣等感に(さいな)まれ続けてきた。

 だが(はた)から見ていて冷静になる部分もあった。選ばれた者たちはみな、まるで龍の奴隷のように思えてならない。龍の意思のまま存続し続けること自体、もはや国として無理がある。その先にあるのはどこまで行っても、犠牲と諦めだけだ。

「こんなこと……絶対に間違ってやがる」

 この国の体制をぶち壊したい。クリスティーナの死をきっかけに、その思いはバルバナスの中でさらに大きく膨らんでいった。

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