宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
      ◇
 熱が引いたリーゼロッテは、マルコが引き起こしたことについて事情を聞かれた。休み休みだったとは言え、半日がかりの聴取に疲労感だけが強く残った。

(マルコ様が二重人格ってこと、ちゃんと伝わったかしら……)

 あの時マルコは、自分はモモだと名乗った。少女のようなしゃべり方は、やはりマルコとは別人に思えた。両親が殺されたショックで出来上がった人格。そういった考え方がこの世界にはあるのだろうか。

(マルコ様が重い罪に問われないといいのだけれど)

 かといってあの人格がいつ現れるのかと思うと、恐怖で身が凍ってしまう。赤く染まりながら無邪気に笑うマルコの顔が、今でも頭を離れない。
 それでも最後にモモが言ったように、リーゼロッテはマルコを憎みきれないでいた。だが王女を手に掛けた事実は変わらない。そこまで思ってリーゼロッテの瞳から、大粒の涙が溢れ出た。

 あの時殺されるのは自分だったはずだ。それなのに王女が犠牲となってしまった。そのことを誰も責め立てない。それがなお(さら)苦しかった。

 今も(とむら)いの(かね)が聞こえてくる。王女の死を(いた)む鐘は、回数を減らしながらも一年の間、毎日鳴らされ続けることになる。その御霊(みたま)が安らかに眠りにつけるようにと。

「お嬢様……」
「ごめんなさい、エラ……わたくしクリスティーナ様がお亡くなりになったことを、まだ受け入れられなくて……」

 震える声と共に涙が滑り落ちた。食事もろくに喉を通らない。憔悴しきった姿に、エラも痛ましい顔となった。
 そのエラの後ろに誰か男が立っていて、リーゼロッテは(はじ)かれたように顔を上げた。

「アルベルト様……」
不躾(ぶしつけ)に申し訳ありません。あまり時間がないもので、無理を言って通していただきました」

 アルベルトは従者でも騎士でもなく、貴族がするようないで立ちをしている。その瞳は(うれ)いを帯びていて、この世にもう王女はいないという事実を再認識する。同時に弔いの鐘が響き、リーゼロッテの顔は盛大に歪められた。

 自分を(かば)ったせいで、クリスティーナ王女は死んでしまった。あれだけ王女を大切にしていたアルベルトだ。どんなひどい言葉を投げつけられようとも、リーゼロッテはそれを受け入れることしかできない。

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