宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
「わたしの龍のあざが消えたということは、アンネマリーが宿すのは確実に次代の王だ。双子でも生まれない限り、お前の言う可能性はない」

 この国で女王が誕生したことは歴史上一度もなかった。王となる託宣を受けた者は、これまで必ず男として生を受けている。

「事情は理解しました。ですがわたくしにできることなどあるのでしょうか……?」

 遠い先祖が王家の血を引くものの、リーゼロッテは直系というわけではない。そんな自分に頼み事など、一体何があるというのだろう。

「新たな神託が降りている」
「神託が?」

 それに振り回されて、今日に至っている。嫌な予感がするが、今さら聞きたくないと言えるはずもない。

「夢見を継し者見定(みさだ)めるまでは、来たる聖女を泉に招くべし。王女が最後に受け取った神託だ」
「クリスティーナ様が……」

 リーゼロッテを(かば)って王女が死んだことを、ハインリヒも知っているはずだ。彼から非難の色はまったく見えず、王女の死は本当に託宣で決められていたのだと改めて思った。

「君の守護者は聖女だろう? この神託にうってつけだ」
「うってつけと申されましても……」
「いや、君以外に適任者はいない。次の夢見の巫女が見つかるまでの間、神事を務めて時間稼ぎを頼みたい」

 力強く言われるも、おかしな雲行きに困惑しかなかった。

「リーゼロッテに夢見の力はない」

 隠すようにさらに抱き寄せられる。断固拒否の構えのジークヴァルトに、ハインリヒは表情を崩すことはなかった。

「必要なのは聖女という肩書(かたがき)だ。リーゼロッテ嬢は先日の騒ぎで聖女の力を解放した。あの力を身をもって感じた神官は数多くいる。その話はお前の耳にも届いているだろう?」

 ジークヴァルトの顔がさらに険しくなった。リーゼロッテがこれ以上厄介事(やっかいごと)に巻き込まれるのが嫌なのだろう。そのことがひしひしと伝わってきた。
 ジークヴァルトがそんなことを考えていることくらい、ハインリヒにも分かっているようだ。だからこそ直接交渉しに来たのか。ハインリヒの頼みを断り切る自信など、リーゼロッテにあるわけなかった。

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