宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
     ◇
「なぁ、明日の夢見の神事はいつも通り行われるんだって?」
「降りた神託通りに、聖女が泉に招かれるって話ですよ」
「聖女? 聖女って誰だ?」

 雪かきを終えた若い神官がふたり、あたたかい部屋でお茶を飲みつつひと息ついていた。

「知らないんですか? 第一王女の神事があった日、清廉(せいれん)な力が広がったじゃないですか」
「ああ、あれ、すごかったな! 神殿中の空気が浄化される勢いだった」
「あれ以来、猟奇事件も起きてないですしね。犯人捜しでギスギスしていた暗い雰囲気も、なんだかすっかり落ち着きましたし」

 それどころか、誰もが穏やかな気持ちで日々過ごしている。心が洗われた。そう表現するのがしっくりする感じだ。

「その力の持ち主が、亡くなった王女の代わりに神事を務めるそうですよ。なんでもラウエンシュタインの血筋の令嬢だとか」
「ラウエンシュタインの……? あそこは最後の女公爵が、龍の花嫁になったんじゃなかったっけ?」
「ひとり娘がいるって聞きました。噂話なんで、本当かどうかは分からないですけど」
「へぇ、そうなんだ。神事にはまた神官長とヨーゼフ様とレミュリオ様が行くんだろうな。お供はここんとこマルコばかり選ばれるし……ってそういや最近マルコ見かけないな?」
「言われてみれば……別の場所に配属にでもなったんでしょうか?」

 ふたりで首をひねるも、下っ端神官に流れてくるのは噂話ばかりだ。

「でもその聖女って夢見の巫女ってわけじゃないんだろ? 巫女がいないと神託が降りてもすぐに分からないからな」
「第一王女も、実はあんまり役に立ってなかったって本当ですか?」
「王女ひとりでは神託を降ろせないから、シネヴァの森の魔女が力を貸していたって話は聞いた」
「それを王女は我々神官に伝達していただけなんですね。そりゃ、いないよりはましでしょうけど」
「王女がいないと最果てにあるシネヴァの森まで、いちいち聞きに行かなきゃならないからなぁ」

 内容とは裏腹に、のほほんとした口調で言う。

「でもそうかー、聖女かぁ。どんな姿してるかひと目見てみたいなぁ」
「聖女だからって美人とは限らないんじゃないですか?」
「お前、そんな夢のない事言うなよな」
「今回は申請すれば神事に参加できるって聞きましたけど。廊下での待機ですけど、そんなに見たければ行ってきたらどうです?」
「それを早く言ってくれよ! 申請まだ間に合うかな? とりあえず確認してくる!」

 飛び出していった背を見送って、残された神官はのんびりと茶を含む。

「明日も寒くなりそうだ」

 雪が降りだした外を見やり、穏やかな午後にあくびを漏らした。

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