宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
     ◇
 王城中が喪に服す中、リーゼロッテは白一色のロングドレスとヴェールを(まと)い、長い廊下を進んでいた。神官長を先頭に、後ろには黒い騎士服を着たジークヴァルトが続く。
 廊下の両脇にはずらりと神官たちが並んでいる。物々しい雰囲気に、リーゼロッテはすっかり気押されていた。

 不躾(ぶしつけ)な神官たちの視線が先ほどから痛すぎる。この国では神官は貴族と対等の立場だ。貴族に対して敬意を払うことはあっても、いたずらに媚びへつらうことはしてこない。
 夜会での盗み見るような視線も苦手だが、こうあからさまに好奇の目を向けられるのも落ち着かなかった。

(ヴァルト様がいてくれなかったら、逃げ出したくなったかも)

 ハインリヒは神事の間、ジークヴァルトがそばにいられるよう配慮してくれた。泉での神事にはひとりで(いど)まねばならないが、護衛騎士として付き添ってくれることが心強い。
 ジークヴァルトを従えているようで、それは申し訳なく思えたが、聖女らしく見えるようにと背筋を伸ばし歩いていった。

(できるだけゆっくり歩くように言われたんだっけ)

 神官たちに聖女の存在を見せつけるように。
 ハインリヒ王にそう注文されて、国を治めてまとめ上げるとはいろんな苦労があるものだと、リーゼロッテはそんな感想を抱いた。

(でもどうしてハインリヒ王は命令しなかったのかしら……?)

 回りくどく頼みごとをしなくとも、王命にしてしまえばジークヴァルトもあんなふうに渋ることもなかったはずだ。勅命(ちょくめい)を出せば、書類一枚でことは済む。多忙の中、わざわざ自らが(おもむい)た理由もわからなかった。

「あれが救国の聖女……」
「なんとも清廉なお姿だ……」

 進むごとにそこかしこから、そんな囁き声が聞こえてくる。

(救国の聖女……? わたしそんな肩書になってるの!?)

 妖精姫などというこっ恥ずかしいふたつ名よりましだろうか。聞こえなかったふりをして、なんとか平静を保つ努力をした。

「まさにあの時の神聖な力だ……」
「ああ……癒しの精霊姫の名に相応(ふさわ)しい……」

(なんかおかしなふたつ名増えてるし……!)

 涙目になりそうなのを必死でこらえる。ヴェールで顔を覆っているものの、薄いレースでは表情を隠しきることは叶わない。

 その後も美しい、可愛い、綺麗だ、可憐だ、癒されるなどなど。神官たちから異口同音に称賛の声を浴びせかけられる。憧れのまなざしと共にされる会話は、ひそひそ話のようでいて、あたりの廊下に響き渡っていた。

(みなさん、そのお声、ばっちり聞こえてますから……)

 それはジークヴァルトも同様で、後ろから神官たちを威圧しまくっていることにリーゼロッテは気がつかなかった。

 羞恥に(さいな)まれながらも、ようやく神事が行われる部屋へとたどり着いたのだった。

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