宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
     ◇
 ジークヴァルトを廊下で待たせたまま、神官長に中へと誘われる。小部屋へと通されて、その奥に古びた扉があるのが見えた。
 その前にいた中年神官が、見定めるような目つきを向けてくる。

「ヨーゼフ、レミュリオはどこへ?」
「外の神官たちを取りまとめに。(じき)に戻るでしょう」
「そうか」

 短い会話の後に、神官長はリーゼロッテを振り返った。

「ではリーゼロッテ様。祈りの泉へとご案内します」
「はい、よろしくお願いいたします」

 緊張しながら頷いた。開かれた扉をくぐると、中は思った以上に広い空間が広がっていた。
 石造りの壁の部屋の中央に、丸い大きな泉が湧いている。静かな水面(みなも)は、磨き上げられた鏡のように、天井の模様を映していた。

「あの泉に浸かっていればいいのですか?」
「はい、時間になればまたお迎えに上がります。恐れずともここは青龍の聖域。あるがままにお過ごしください」

 そう言って神官長はすぐ出て行ってしまった。ひとりきりで残されたリーゼロッテは、泉へと歩み寄る。

(あの日、クリスティーナ様もここで過ごされていたのよね……)

 沈んだ気持ちで覗き込むと、水の中、泉の(ふち)が階段状になっていた。見ようによってはただの室内プールだ。それでも恐る恐るリーゼロッテは水面に足を延ばした。
 裸足の指先が触れ、波紋が泉の表面を広がっていく。

(あれ? 意外と冷たくない)

 思い切って片足を突っ込んだ。水に入った感覚はあるのに、まるで冷たさを感じない。
 かといって、お風呂のようにあたたかいかというとそうでもない。不思議な感触の中、本格的に泉へと踏み入れた。

 水中の階段を(くだ)って、泉の床へと降り立った。そこまで深くはないが、王女より背の低いリーゼロッテは、胸下まで体が浸かった状態だ。
 ざぶざぶと中へと進んでいく。水の深さは変わらないようで、天井の模様を目印に、だいたいこの辺りかと泉の中央で立ち止まった。

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