宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 自分が作った波で、水面がゆらりゆらりと盛り上がる。そこに壁に灯された蝋燭(ろうそく)の炎が反射して、なんとも幻想的な模様を描いた。

 やがてその波紋も静まって、再び泉は天井の模様と同じになった。冷たさも温かさも感じないまま、リーゼロッテはしばらく息を殺して(たたず)んだ。音もしない場所で、どれだけ時が過ぎたかも分からなくなる。

「そうか……自分の体温とおなじなんだわ……」

 気を(まぎ)らわすようにつぶやいた。(すく)い取ると、さらさらと水が両手をこぼれていく。

「不思議……まったく濡れてない……」

 持ち上げた手に水滴すら残されない。浸かったヴェールの先も、長い髪の毛すら、泉から出してしまえば噓のように乾いた状態になった。

「水に入ってるって感じはするのに」

 かき回すように手を動かすと、水面に映る自分の顔もゆらゆらとかき混ぜられた。

「それにしても暇だわ……」

 自分の声だけが響く中、ぼんやりと天井を見上げる。ジークヴァルトの言うように、まだ体力は回復しきっていないようだ。何かしていないと眠ってしまいそうで、リーゼロッテは水中でロングドレスのポケットをごそごそと探った。

「こんなこともあろうかと、こっそり持ってきたのよね」

 取り出した知恵の輪をかちゃかちゃといじり出す。だが立ったままでいるのもおっくうになってきて、次第に睡魔が押し寄せてきた。

(駄目だわ……とりあえず、泉の中にいればいいのよね。どうせわたしがいたって、神託が降りるはずはないんだもの)

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