宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
『ねぇヴァルトってば、ちゃんと聞いてる?』

 思考に(ふけ)っている間も、ジークハルトがなんやかんやと言い続けている。すべて無視を決め込んで、ジークヴァルトは仏頂面のまま(たたず)んでいた。

 そろそろ終わる頃合いとなり、出待ちの神官たちがそわそわとし始める。しかし待てども神事の扉はなかなか開かれなかった。

『もたもたしてると、そのうち本当に後悔するよ? 前にも忠告したけどさ、異形の者より人間の方がよっぽど(たち)悪いんだっ……ていうか、もう遅いか』

 閉ざされた扉を見やりながら、最後だけジークハルトはぽつりと言った。はっとなり、扉を乱暴に開け放つ。
 慌てた周囲の制止をものともせず、ジークヴァルトは中へ足を踏み入れた。奥に開かれた古びた扉が見えて、迷いなくそこへと駆け込んでいく。

 丸い泉のある部屋には、神官長ともうひとり神官がいた。見回すもリーゼロッテの姿はない。この空間には彼女の力が満ちている。確かにここにいたのだと、それだけは分かった。

「神事は終わったのだろう? リーゼロッテはどうした?」
「リーゼロッテ・ダーミッシュ様……いえ、リーゼロッテ・ラウエンシュタイン様は、青龍がお隠しになられました」
「青龍が……? 一体どういうことだ」

 神官長の胸倉を掴んで半ば持ち上げる。(ひる)む様子もなく神官長は静かな瞳を向けてきた。

「神事が終わり、先ほどこの部屋へとお迎えに上がりましたが、その時にはすでにお姿が消えておられました。リーゼロッテ様は神隠しに合われたのでしょう」
戯言(ざれごと)を……! 命が惜しかったら本当のことを言え、リーゼロッテをどこにやった!」
「この祈りの泉へはあの扉からしか出入りはできません。これはもう青龍の意思としか」
「ふざけるな!」

 締め上げた神官長の肩越しにもうひとつの扉が見えた。石造りの壁に巧妙に隠されているが、あれは王城のいたるところにある隠し扉だ。
 投げ捨てるように神官長から手を離すと、ジークヴァルトは奥の壁際へと向かった。龍のレリーフを見つけ、そこへと力を流し込む。青い力が(ほの)かに光るも隠し扉は開かなかった。

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