宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
「副隊長!!」
「離せ!」

 すかさずキュプカーに取り押さえられる。振りほどこうとするも、数人の騎士がそれに加わり、床へと膝をつかされた。動じた様子も見せずに、ハインリヒは神官長に向き直った。

「夢見の神事に関しては神殿の管轄(かんかつ)だ。この件に関する調査はすべて神官長、そなたに任せる」
(しか)と心得ました」

 王の言葉に神官長が頭を下げる。それを目の当たりにしたジークヴァルトから、低くうなるような声が発せられた。

「……リーゼロッテを見捨てるつもりか」
「ダーミッシュ伯爵令嬢はまだ託宣を終えていない。時期が来ればいずれそなたの(もと)に戻って来よう。フーゲンベルク公爵、それまでは領地での謹慎(きんしん)を申し渡す。(めい)(そむ)けば公爵家を取り(つぶ)す。心しておけ」
「貴様……っ!」
(こら)えろ、副隊長」

 キュプカーの制止も耳に届かない。押さえる手を振りほどこうとするジークヴァルトは、本格的に騎士たちに押さえつけられた。床に這いつくばる姿を静かに見下ろしたあと、ハインリヒ王は悠然とこの場を去って行く。

「こんな危険人物、不敬罪にでも処せばいいものを……!」
「ヨーゼフ、公爵様は龍の託宣を受けたお方だ。それに新たに神託が降りた身でもある。そのように言うものでない」

 (たしな)めるような神官長の言葉に、ヨーゼフは不満顔で口をつぐんだ。その後ろ、廊下側の扉から、盲目の神官が入ってくる。

「おや? これは一体何事でしょうか?」
「レミュリオ、今までどこに行っていたのだ」
「申し訳ありません。戻る途中、貴族のご婦人方に足止めをされてしまいまして……」

 すまなそうなレミュリオに、神官長は仕方ないといった顔をした。

「何やら大捕(おおと)(もの)のようですが……あなたは確かジークヴァルト・フーゲンベルク様でいらっしゃいましたね」

 閉じた瞳のまま、レミュリオはジークヴァルトを見下げてうすく笑みを()く。

「それはそうと、神事をお勤めになったご令嬢はどちらに……?」
「お前には後で詳しく話す」

 神官長は気を取り直すように、周囲を見回した。

「とにかくこれ以上、聖域を(けが)してはなりません。騎士のみな様は早急にここから退出を願います」

 その一言でジークヴァルトは強制的に追い出され、神事の部屋は神官長の手により、固く閉ざされてしまった。

< 279 / 391 >

この作品をシェア

pagetop