宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
     ◇
 まどろみから目覚め、リーゼロッテは体を起こした。ぼんやりと辺りを見回す。見慣れない部屋に、一気に意識がはっきりとなった。
 簡素な寝台の上にいる自分は、神事の白い衣装を着たままだ。いつ運ばれたのかも記憶にない。泉で本当に眠りこけてしまったのだと、青ざめた顔になる。

「どうしよう……大事な役目だったのに……」

 聖女としてそれらしく振る舞うよう、ハインリヒ王から頼まれていた。神官たちにも呆れられたかもしれないと、リーゼロッテは慌てて寝台から下り立った。

「どなたかいらっしゃいませんか……?」

 しんと静まり返ったここには、自分以外誰もいなかった。それにとても小さな部屋だ。寝台と丸テーブルに一脚(いっきゃく)の椅子。置かれているのはそれだけで、あとは格子(こうし)のはめられた小窓があるだけだった。
 扉を見つけ、ノブを回した。鍵がかかっているのか開かない。

(内鍵がないわ……)

 ということは外から鍵を掛けてあるということだ。扉にはのぞき穴のような、(ふた)つきの(わく)がくり抜かれていた。監視をするためにつけられている。そんな印象をリーゼロッテは受けた。

「あの、どなたかいらっしゃいませんか……! ヴァルト様? わたくしはここですわ!」

 扉を叩き外へと呼びかける。ノブを回すがやはり扉が開くことはなかった。よく見ると、扉の下もくり抜かれている。人は通れないが物は差し入れられる。そんな微妙な大きさだ。
 あらためて部屋を見回すと、奥には簡易キッチンのような流しが見えた。まるでワンルームの間取りに思えて、次第に胸に不安が(とも)っていく。

(もしかして、閉じ込められてる……?)

 窓に駆け寄り外を確かめた。雪にうずもれた針葉樹の森が、そこにはどこまでも広がっていた。

「ここはどこなの……」

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