宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 子供時代に甘やかしてもらった記憶はある。しかし彼女のやせ細った遺体を前にしても、何の感情も生まれてこなかった。

 ウルリーケは初めから最期(さいご)まで、自分のためだけに生きる人間だった。(おのれ)のみがかわいく、己のみが可哀そうな。そんな寂しい人間だった。

 ふとざわめきが途切れ、遅れてやってきたふたり連れに注目が集まった。異様なほど静まり返ったこの斎場に、すすり泣く声が小さく響く。
 その主はジークヴァルトに連れられたリーゼロッテだった。(こら)え切れないように、大きな瞳から大粒の涙が次から次へと溢れ出る。

 喪服に包まれ小刻みに口元を震わせる様子は、見る者にどうしようもない居たたまれなさを感じさせた。幾人かの人間が、つられるように涙ぐんだ。それでも今ここにいる中で、心からウルリーケの死を(いた)む者は、リーゼロッテひとりだけなのだろう。

 そんなことを思いながら、アデライーデはぼんやりと葬儀の流れを見守った。
 ウルリーケの魂が無事に青龍の御元へ還れるよう、神官が朗々と祈りを捧げていく。

 王族だったウルリーケのために、(とむら)いの(かね)が三度だけ鳴らされた。

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