宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
     ◇
 葬儀を終え、ジークヴァルトとともに神殿の廊下を進む。泣きはらした目には、いまだ涙がにじんでいた。また会いに行く。ウルリーケとしたその約束は、結局、果たすことができなかった。

(最後にいただいた手紙ではまだまだお元気そうだったのに……)

 弱々しい筆跡ではあったが、書かれた内容は今までと変わらないものだった。ここのところの浮かれ気分で送った手紙の返事が届く前に、ウルリーケの訃報がやってきた。

 亡骸(なきがら)は目を背けたくなるほどにやせ細っていた。安らかに逝けたのだろうか。死化粧(しにけしょう)を施されてなお、ウルリーケの顔には苦悩の影が色濃く残されていた。

(ウルリーケ様……)

 死を迎える瞬間など、今のリーゼロッテには想像することすらできはしない。

 半ばジークヴァルトに支えられて歩く。さすがに時と場所を考えてか、おぼつかない足取りでも無理に抱き上げることはしてこなかった。
 ふいにふたり連れの神官とでくわした。ひとりは先ほどウルリーケの魂を天へと送った老齢の神官だ。

「これはフーゲンベルク公爵」

 戸惑ったようなリーゼロッテの耳元で、ジークヴァルトが「神官長だ」と小声で教えてくれた。

「こちらはご婚約者でいらっしゃるかな?」
「リーゼロッテ・ダーミッシュと申します、神官長様」

 リーゼロッテが礼を取ると、しわの刻み込まれた目元を神官長はやさしげに細めた。

「ウルリーケ様の御霊(みたま)も、あなたの涙で安らかに天に還ったことでしょう」
「そう……あってほしいです」

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