宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
「だってこんなもの、わたくしの口に合わないもの。もっと甘いものが食べたいですわ」
「いえ、ここは規律ある神殿ですので、そういったものは……」
「ここは神殿なのね?」
「あ、いやっそのっ、そうだったりそうじゃなかったり……それはそうとそちらの野菜スープなどはすごく体に良いのですよ?」
「いやですわ。こんなまずいもの食べられません」

 つんと顔をそらすと神官が悲しそうな瞳になる。

「それを食べていただけると、こちらとしてもありがたいのですが……」

 どうやら食事に薬草が仕込まれていることを知っているらしい。半眼でにらみつけると、なぜか男は顔を赤くした。

「わたくしビョウのパイが食べたいです。サクサクとろとろのおいしいパイなら、いっぱい食べられそうですわ」
「えっ!? 今の時期にビョウなんて手に入らないですし……」
「ビョウじゃなきゃいやです。だってほかのものは(のど)を通らないんですもの」

 涙目で見上げると、今度は見惚(みと)れたまま(ほう)けてしまった。

「わかりました……聖女様のために何とかしてみます……」

(ミッションその三。ここにわたしがいるってことを外に知らせる)

 季節外れのビョウなど、普段なら神殿が仕入れるはずもない。ベッティの話では、神殿で扱わない物を所望すれば、外部に不信な動きをにおわせられるとのことだった。

「もうひとつお願いしてもいいかしら?」

 可愛らしく小首をかしげると、男はこくこくと頷いた。

「わたくしね、いつもアルフレートと一緒に眠っているの」
「アルフレート?」
「王都のお店で買ってもらった大きなクマの縫いぐるみよ。赤いリボンのついたとっても可愛い子なの。わたくしアルフレートがいないと、ひとりじゃ夜も眠れなくって……」

 心細そうに瞳を潤ませる。

「そのアルフレートは今、どこにいるんですか?」
「公爵家のお部屋ですわ」

 難しそうな顔をして、男は黙り込んだ。拒否というより、考え込んでいる表情だ。

(これはもうひと押しね)
 瞳にもりもりと涙をためて、渾身(こんしん)の上目遣いでお願いする。

「ひとり()はさみしいの……わたくしのためになんとかしていただけませんか……?」
「わっかりました! 必ずやアルフレートを連れてきます! このオスカーにお任せをっ」

(うわ、このひと、自分から名前言っちゃったわ)

 見張り役としていかがなものか。悪の組織はもしかすると、人員不足なのかもしれない。

「ありがとうございます、オスカー様。わたくしとってもうれしいですわ」
「はっ、つい名乗ってしまった……! あの聖女様、できればこのことは内密に……」
「では、ふたりだけの秘密ですわね」

 にっこりとほほ笑むと、オスカーの瞳にめろめろのハートマークが飛び散った。

< 292 / 391 >

この作品をシェア

pagetop