宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
     ◇
 ビョウのパイが差し入れられたのは、それから三日後のことだ。リーゼロッテがほとんど食べないこともあってか、思いのほか早く要望が受け入れられた。
 しかしパイの中には例のごとく怪しい成分が混入していた。そのためベッティサインにより敢え無く却下され、久ぶりのスイーツを前にリーゼロッテは涙を飲んだ。

「わたくし、もうパイの気分じゃないの」

 居丈高(いたけだか)にそう言って、美味しそうにこんがりと焼けたパイを断腸の思いで神官に突き返した。あの時の傷ついたオスカーの瞳が忘れられない。きっとリーゼロッテをよろこばせたくて、懸命に季節外れのビョウを用意してくれたのだろう。

 異物混入を避けられるのは、調理していない果物だけだ。ビョウを丸ごと持って来いと駄々をこね、それ以来食事の膳には、小ぶりなビョウが必ずつくことになった。
 そんなこんなでリーゼロッテが日々口にしているのは、季節外れのビョウだけだ。

(強制リンゴダイエットね。こんなんじゃどんどん体力が落ちていくわ……)

 ほっそりした指先は、領地のお屋敷で引きこもりの令嬢生活をしていた頃に戻ったかのようだ。
 指だけならまだしも、東宮で(きた)え上げた体は見る影もない。全体的に薄くなった体はメリハリが失われ、まさに寸胴(ずんどう)体型だ。

(うう……あんなにバストアップも頑張ったのに……)

 なぜ胸はいちばん先に痩せていくのだろうか。ぺたんこに逆戻りしてしまった胸を見下ろして、リーゼロッテはひとり涙目になった。

 その時ベッティを連れた神官が現れた。見張り役は三人の神官が当番制でやってくる。
 おしゃべりなオスカー以外は、(かたく)なに言葉を発しない。しゃがれ声の神官はいつも真面目にリーゼロッテを見張っているが、もうひとりの神官は途中どこかに行ってしまうようになった。

 その神官は最近では侮蔑(ぶべつ)を含んだ視線を向けてくる。あれもいやこれもいやとわがままばかり言うリーゼロッテに、あきれ果てている様子だ。演技でそう見せているのに、なんだか悲しくなってしまう。
 だが職務放棄をしてくれるおかげで、ベッティと心置きなく話ができるのだ。嫌われて上等と開き直るしかなかった。

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