宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 今日は運がいいことに、その神官が担当だ。ベッティを部屋に押し込むと、神官はすぐに来た廊下を戻っていった。

「本日も食べられるのはこちらだけのようですねぇ」
「そう……」

 ビョウを指さすベッティに、落胆の表情で答える。しゃくしゃくとかじるビョウはとても硬く酸っぱかった。季節外れなのだから仕方がない。
 口の中、あっという間になくなってしまったビョウにため息を落とした。そこに食べ物はあるのに食べられない。こんな苦痛があるだろうか。

「うーん、このままではリーゼロッテ様が骨と皮になってしまいそうですねぇ。よろしければこちらをお食べになりますかぁ?」

 心配顔のベッティがこげ茶の(かたまり)を差し出してくる。

「これは……?」
(かた)パンですぅ。ベッティに配給されるものなのでぇ、お口には合わないとは思いますがぁ」
「でもそれじゃあ、ベッティの食べるものがなくなってしまうわ」
「わたしはこちらを食べますのでリーゼロッテ様はご遠慮なくぅ」

 そう言うとベッティはリーゼロッテに用意された料理を、ひょいひょいと口に放り込んだ。

「え!? ベッティ、それ食べても大丈夫なの?」
「ご心配には及びませんよぅ。わたしは毒に体を慣らしてありますのでぇ、この程度ならまったく影響は受けませんからぁ」

 さすが凄腕(すごうで)諜報員(ちょうほういん)だ。そういう事ならと、リーゼロッテは遠慮なく堅パンを小さくかじった。口に入れたものの、噛んでも噛んでも飲み込めない。その手ごわい歯ごたえに、リーゼロッテは悪戦苦闘しながらようやくひと口目を胃に収めた。

「やっぱりお口に合いませんかぁ?」
「いえ、どこか懐かしい味がするわ」

 それは(かん)パンのような風味がするからだろう。不思議顔のベッティをしり目に、リーゼロッテはゆっくりと堅パンを味わった。

「ありがとう、ベッティ。なんだか久しぶりに人心地がついたわ」
「これからはこの作戦で参りましょうかぁ。リーゼロッテ様が薬草入りの食事を食べるようになったと、奴らも油断するかもしれませんしぃ」

 言いながらベッティは、あっという間に皿を(から)にした。
 そのタイミングで見張りの神官が戻ってくる。ベッティはさっと気の弱い下女に戻って、掃き掃除をしはじめた。

 平らげられたリーゼロッテのお膳を確認すると、見張りの神官の目がにんまりと細められたのだった。

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