宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
「ふざけてなどいませんよ。貴女ほどわたしの花嫁に相応(ふさわ)しい者はいない」
「誰があなたの花嫁になどなるものですか。わたくしはジークヴァルト様の託宣の相手です。それは龍がお決めになったこと。誰にも(くつがえ)すことはできませんわ」
「ああ、そんなことを(うれ)いていたのですか。貴女が今ここでわたしに抱かれようと、何も問題はありません。例え純潔でなくなったとしても、託宣に支障など出ないのですから。ですがそうですね……龍の(たて)の彼には、時期が来たら貴女を貸し出すことにしましょうか。その時に心置きなく託宣の子をもうければいい」
「本気でそんなことをおっしゃっているのですか……?」

 目の前に立つ男が何を言っているのか、まるで理解ができない。とてもではないが正気の沙汰とは思えなかった。

「こんな馬鹿げたこと、龍がお許しになるはずはありません」
「老いぼれた龍の言うことなど、わたしには何の意味も持ちませんね。それに貴女とわたしがひとつになれば、新たに国を造るも容易なことだ。ああ、我ながらいい考えですね。(ゆが)み切ったこの国をまっさらに消し去って、完璧な国をふたりで(いち)から造り上げましょう」
「あなた……何を言っているの……?」

 まるで会話がかみ合わない。リーゼロッテの中で(いきどお)りと恐れが広がっていく。

「美しい……慈悲深い貴女の怒りは純粋だ」

 リーゼロッテから立ち昇る緑の力に、男は感嘆の息を漏らす。一歩こちらに近づくと、片手をかざし指先に緑を絡めていく。

「暗がりで隠れたつもりでいたのでしょうが、わたしには貴女の輝きが丸見えですよ。ああ……やはり貴女は素晴らしい。ラウエンシュタインの秘めたる力を、もっとわたしに感じさせてください」

 手のひらの中、緑の力が吸い込まれていく。強引に引っ張られる感覚に、リーゼロッテは顔を歪ませた。

「やめて、近づかないで! それ以上近づいたら、わたくし自分で命を絶ちます……!」

 咄嗟に取り出した知恵の輪を喉元に突き立てる。神事の時からずっと持っていたものだ。こんなもの、武器にはならなさそうだが、今ははったりをきかせるしかなかった。

「なんとも(つたな)い抵抗ですね」

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