宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 青銀の力が強まって、握っていた輪が手を離れた。金属が跳ねる音が響く中、男はリーゼロッテの力をさらに絡めとっていく。
 引き戻そうと必死になっていた時に、突然力を押し戻された。自分の緑に紛れるように、凍てつく青銀の力が体に無理やり入り込んでくる。

(気持ち悪い……!)

 男から流れ出る力は、リーゼロッテの中を少しずつ侵していく。身の内を虫が()いまわっているかのようで、言いようのない不快感にリーゼロッテは身を震わせた。

「他者の力を受け入れるのは初めてですか? 怖がることはありません。まぐわいとは本来エネルギーの交換です。肉体の快楽だけではない、至福の時を味合わせて差し上げますよ」

 どろりとへばりつくような力を、苦悶(くもん)の表情で追い出そうと試みる。だがその抵抗を楽しむように、青銀はさらに奥へ奥へと根をはり続けた。

(気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い……!!)

 涙が溢れ出し、唇を戦慄(わなな)かせる。ジークヴァルトならこんな苦痛は感じない。あの青と混ざり合う瞬間だけが、リーゼロッテの最上の至福の時だ。

「手放した方が楽になりますよ」

 薄く笑みを刻んだまま、男はリーゼロッテの耳元に唇を寄せた。間近で見る男の顔は、まるで血通わない彫像のようだ。

「このままでも十分楽しめますが、ようやく手にした貴女だ。肌に触れないというのも勿体(もったい)ないですね」
「触らないで……!」
「そうおっしゃらずに。ほらこうすると……貴女の魂がこんなにも震える」

 男の冷たい指先が、首筋をすっとなぞる。(あわ)立つ肌に連動するように、リーゼロッテの力が激しく波立った。

「やめてっ」
「ああ、なんと心地よい波動……これから貴女とわたしで、ゆっくりと時間をかけてひとつになりましょう」

 乱された隙をついて、さらに浸食が深まった。抵抗したくても、縛られたように自由が効かない。胸元に手が滑り落ちていくのを目で追いながら、リーゼロッテは悔し涙を流すしかできなかった。


 その刹那、男のすべてが一瞬で遠退(とおの)いた。目の前で放たれた雷撃(らいげき)が、守るように厚い障壁(しょうへき)を作り出す。

「ジークヴァルト様……」

 あたたかい波動に包まれて、リーゼロッテは茫然と胸元を見つめた。守り石が宙に浮き、煌々(こうこう)と青の輝きを放っていた。

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