宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
     ◇
「うぁうぅ」

 おかしなうめき声をあげながら、ベッティは新雪の中に体ごと突っ込んだ。火照(ほて)る全身を冷やすように、ずぶずぶと雪の中を進んでいく。

 あのまま部屋にいたら、妙な言葉を口走ってしまいそうだった。自分は耳も口も不自由な小間使いの設定だ。演じていることを気取られることは許されない。
 デルプフェルト家は諜報(ちょうほう)活動に特化した一族だ。カイの顔に泥を塗ることだけは死んでもできないと、ベッティは神官の目を盗んでこっそりと部屋を抜け出した。

 荒い息のまま気を紛らわすように、冷たい雪を口に含んだ。体の芯まで冷えてきて、幾分か冷静な思考が戻ってくる。

(凍死しない程度にしとかないとですねぇ)

 今の状況は、完全に自分の判断ミスだ。身元がバレてカイの迷惑になるくらいなら、このまま氷漬けになった方がよっぽどマシだった。

 こんな夜更けのこんな場所に、誰がやって来るはずもない。それでも念のためにと、人のいなそうな方向をさらに目指した。
 少しだけ欠けた丸い月が雪に反射して、外は建物の中よりずっと明るく感じられる。月明かりの中ベッティは、道なき道を進んでいった。

「はぁ……ここら辺ならもういいでしょうかぁ」

 息をつき足を止める。雪の中に身をうずめ、月の空をじっと見上げた。(こご)え切った体が生存の危機を訴えてくる。それが媚薬の効果を上回り、ベッティの思考は随分とクリアになった。
 本当だったら、そろそろ一度カイの元へと戻る計画だった。だがリーゼロッテのことをこのまま放置するわけにもいかないだろう。

 カイは黒幕の目星はついていると言っていた。龍に目隠しをされて、その名を口に出せないのだとも。

 今頃彼女はどうしているだろうか。黒幕がカイの思うあの人物なら、自分がいたところで上手く対処できたかは分からない。ベッティはリーゼロッテに、その人物の名を伝えようとした。だがカイの言うように、ベッティもまたその名を口にはできなかった。

(レミュリオとかいう神官……確かに胡散(うさん)臭そうですもんねぇ)

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